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蛙なく不審尋問蛙なく 名もなき小さき力なき それでも声をあげる 草や路上 汗にまぎれた生活の詩


by tatazumi
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自句自解「句集地球にねてる」 橘安純

自句自解「句集地球にねてる」

大きな満月 リヤカー空とぶ
 ダンボール山積みのリヤカーを、ゆっくり一歩ずつ男が引いていく。ある時は寝台となるリヤカーである。そのリヤカーを主人公にして句を作りたいと思っていた。ある時、黄色黄色した満月を横切っていくリヤカーのイメージががわいた。そのまま句にした。もちろん映画「ET」が下敷きになっている。子供たちがETと共に自転車に乗ったまま空を飛んで満月を横切る情景をリヤカーに置き換えた。

リヤカーが雨音を聞いている
 雨の日はへたに動かない方が良い。カッパ着て動き回り汗をかき風邪でも引いたら大変だ。一粒一粒降りかかる、雨に打たれじっと動かないリヤカー。小さい頃雨に閉じ込められ、縁側に寝そべり雨音をきいた

\\\\\\\\\ここにねる\\\\\\\\\\\\
 一九九八年五月から、それまでのドヤ(簡易宿泊所)住まいから野宿となりました。当初は毎晩、寝場所を探しながら、あっちこっちと自転車で放浪し、毎日違う場所で野宿していました。
 十一月に入ってからは近鉄阿部野橋駅の脇で寝るようになりました。夜八時過ぎになると、駅ビルの軒下に寝場所を作り、朝五時には寝支度を片付け、軒下から歩道の反対側、車道側に荷物を片付けました。

どこにねる なぜねる ここにねる
住むべき家はない 寝る所はここ
 単に道端に寝ているのではなく「私はここにねる」と自分の意志で寝ている。住むべき家はなくとも寝る所はあるのだ。

風ふきぬけるけど仲間いるから ここに寝る
横になり ほっとするダンボールの我家
 いつも顔を会わす仲間がいるから、別のところに移動する気は全くない。
 阿部野橋駅前ではダンボールを組み合わせて箱の中で寝ていた。昼間は常に人に見られているが、ここで他人の視線を感じないで、やっと一人の時間を持てた。

秋の宵それぞれの身支度道端に寝る
秋の夜寝袋はいり安楽をえる
 私はダンボールの箱の中に寝て通行人から寝姿を見られなかった。しかし、多くの人は寝場所の周囲にダンボールを立てるだけで、上面はそのままだから寝姿を通行人に見られている。また囲いを作らず、そのまま布団を敷く人もいた。私達はデパートの営業終了時間8時頃から寝場所を設営した。またもっと遅く人通りがなくなってから寝場所を作りだす人もいた。
 一日、歩き回ったり、人ごみの中にいたり、寝床に横になり、寝込むまでのわずかな時間がとても幸福な時間に感じられる瞬間であった。

ぐっすりと寝た夜が明けていた
目覚めれば柳たなびき空高き
 この二つの句はまだ寝場所が定まっていない時で、あっちこっち寝場所を探し歩き、疲れきって公園の露天で横になって寝た時の句です。
 眼が覚めたときは、すっかり明るくなっていて、あわてて起き上がりました。他人に見られると恥ずかしいからです。
 二句め、夜明け頃、目を開けると寝るときは気ずかなっかった柳が頭上にゆれていました。

横になり壁に向ってヒールの音きく
若い女の声きこえる路上ねむれない夜
 心斎橋筋も人通りの少ない船場でダンボール一枚敷いてシャッターの前に
寝ている。すると数人の女性が通ります。私は身動きせずに聞き耳をたてます。そうして通行人の気配をさぐっているうちに意識が冴えてきました。

公園で昼寝できない空っ風
行くところがない公園でねてる
 昼間いる所がない、野宿者のための施設は仲間がいっぱいいる。地下道なんかでよい場所を見つけ座っていると、警備員が来てどかされる。そこで公園に行って、することもないし、横になり昼寝することになる。
 公園で寝ようとしても、風が吹きだしたら寒くて横になれない。

青い銀杏かぜにゆれ今宵の天井
 寝支度して、仰向けに横たわると頭の上には街灯に照らされた「いちょう」の葉が繁っている。よく見ると、その葉の中にまだ青い「ぎんなん」があふれるようについているではないか。

一つずつはずかしさ消して路上に寝る
 野宿し始めの頃は、人気のない所を探し回って深夜に埠頭の倉庫の影や、公園の一角に寝場所を定めた。そのうち野宿の仲間の側に寝たほうが安全だと思うようになった。そして駅前の通行人がひっきりなしに通る所を寝場所にした。最初は寝姿を他人に見られたくない、野宿しているところを他人に見られたくないと思っていたのだが。やがてそんな事は寝場所の条件でなくなった。

夜が明けていよいよ寝入る宿無し
いつも不確実な睡眠
 満足な寝場所が確保できない人。冬期に寒すぎて寝れない人。夜中に街を歩き回り拾い物をしている人。そんな人々は日が上がってから、ゆっくりと寝るのだ。
 道端に寝ていると熟睡できないのか、昼間でも横になるとすぐ眠たくなる。栄養状態が悪いのか原因かもしれないし、外敵を恐れ身体が緊張しているのかもしれない。

寒いけどここにねる
 そりゃ寒いけど、寝る場を探し動き回る必要ないし、顔見知りの仲間がいるここで寝る。

地球にねてる
 真昼間、酔っ払っているのでしょうかアスファルトの道路に横たわる人がいます。夜になって道端に毛布一枚かけて寝ている人がいます。大地を敷布団に大空を天井に寝ています。
 当初は次の二句があった。
アスファルトにすわるコンクリートにねる
商店街公園高架下、地球にねてる
 これを一つの句にした。
アスファルトにすわるコンクリートに横たわる地球にねてる
 さらに上、中を捨てて「地球にねてる」を独立した句とした。

\\\\\\\\\青い雨ふる\\\\\\\\\\\\
水たまりの水銀灯 秋雨にゆらぐ
こわれた傘でやっぱりぬれて
 傘がないので雨宿りしている。大きな駐車場の水たまりに写る水銀灯が雨粒にゆれている。
 新品で傘を買ったことなどない。どこかで拾った傘を使っている。たまにしか使わないので雨が漏れることなど忘れていた。

寝るためのダンボールぬれた青い雨
ダンボールどろどろ布団しめった青い雨
 「青い雨」を私の季語とした。寂しい、あるいは侘しく降る雨の意味で、季節を断定すれば梅雨寒の中にシトシト降る雨である。
 夜のために隠しておいたダンボールは濡れていて使い物にならない、新しいダンボールを探そうにも、雨に濡れていて。布団まで湿っていて、にくたらしい雨だ。今宵どうやって眠ればよいのか。

雨あし強くなったか寝てる顔に雨粒
 アーケードの下なので雨が降っても大丈夫だと思っていたが、雨音が強くなると共に、一筋、一筋、雨粒が顔にかかってくる。

ねむい このまま雨にうたれていよう
 寝袋に入って建物の影に寝ていると、雨がポチポチ降りだした。天気予報で雨の降るような事も言っていたが大した事ないだろうと思って雨が当る所に寝ていた。ちょっと雨のかからぬ場所に退避しよとも思ったが、眠さに負けて、そのまま寝袋に入り込んで寝てしまった。
 朝目覚めると、雨はあがっており、寝袋はずぶぬれになっていた。

雨にぬれ住むべき部屋があったらと思う
 雨にぬれても直ぐには着替える場所とてなくて、こんな時に部屋があったらと思う。

激雨 いるとこがない
 あまりの勢いの雨に、どこにも移動できない、つったつて雨を見るだけだ。

雨ふられダンボールハウスとけた
 急な雨に大切なダンボールが濡れてしまいハウスが組み立てられなくなってしまった。

\\\\\\\\\直面する死\\\\\\\\\\\\
風邪ひいたこの雨で死んでやろうか
 風邪ひいて体調がくずれているが体を休められる場所はない。意識を真っ直ぐに保って、道端に寝っぱなしになることだけは避けている。でもつらい、雨の中、道端に寝て、このまま死んでやろうか。

雨にぬれ地面によこたわってるじっとしてる
 地面によこたわっている人がいます。雨は降り続けています。まだ動きません寝ているのでしょうか、じっとしています。

餓死 凍死 雨にうたれて衰弱死
 飽食が続く日本においても餓死する人がいます。雪中でなくても簡単に凍死する人がいます。病院で点滴すれば助かったのかもしれないけど病院や役所の世話になりたくないと
寝込んだまま衰弱死する人がいます。
 失禁したりして衣服が濡れたまま路上に寝込んでいて気温が下がり冷え込みがあると凍死する可能性があります。酒でも飲んでいて手先等の毛細血管が開ききっていると、そこから体温を奪われて凍死する可能性が大きくなります。
 体が悪くなって、食べ物がなくなったけれどたよる人なし、たずねてくる人なし、生きるという気力ももなく、そのまま横になったままになってしまいます。

酒あびて凍死した友 安楽死
 生きている者が話し合って、酔っ払ってそのまま寝込んで死んでいった人は苦しみがなくて良いなと話します。死んだ当人ではないので真実の所は分からないのですが。苦しまずに死にたいと話します。

横たわっている生死不明
 道端にじっと寝ています。すこしも動きません。でも寝ているだけかもしれません。道端に寝る人はめずらしいことではないので、「うるさい」と言われるのもイヤなので声をかけませんでした。

地下道閉鎖前はじめてきずく生き倒れ
 地下道天王寺駅がシャッターを下ろし閉錠する時、地下道に寝ていた人々を追い出そうとして、死んでいる事を始めて気づいたのです。

青酸カリあればと腹すかす友がいう
 阿部野橋駅前で寝ていた時、となりに寝ていた人が言うのです「役所が青酸カリを配ってくれれば良い、それを飲んで死んでしまいたい」

プライドあり隣人の助けこばみ自死する
 98年自死する人が続いた。周りの人の声かけに応えぬまま青白い顔で横になっている時が多かったという、フェンスにヒモを結びそこに首をかけた。
 以下の二句も、この自死をきっかけに作った句です。

あわてて死ぬことない そのうち死ぬで
 友達と話していてできた句。精神がとても落ち込んでいて明日に全く何も求められなくなるのだろうけ度ど時間が経てば少しは楽になって行くと思う。
 早まることはない死のうと思えば何時でも死ねる。死のうと思わなくても交通事故にあい死ぬかも分からない。癌に侵されても可能な限り治療を続け死と闘う人がいる。

死ぬな生きて生きて生きろ
 杉原洋二氏の詩の一節を当人の承諾を受け使わせてもらっている。現在は「生きて生きて生きろ」と死ぬなを省いてポストカードなどになどに墨書している。
   生きてくれ 杉原洋二 全文
仕事に行ける人と行けない人との
ギャップの大きい この釜ヶ崎
生きてくれ、野たれ死にするな
生きてきた以上、生きて生きて
そして死んでくれ、
俺はそう思う、
生きよう、生きろう、生きていなければならない
釜ヶ崎なんてないほうがいい
しかし今の「日本」では、
競争のはげしいものだと分かっていても
生きて、生きて、生きぬくことに
自分の人生に勝つ

\\\\\\\\\炎天汗かく\\\\\\\\\\\\
夏めいて野宿によろしい上着すて
 暖かくなり露天で寝れるようになり、もう使わない厚い上着を捨てました。

空腹炎天 水をガブガブ
 空腹をまぎらわせるために水を飲みます。

陽にやけてアカにまみれて真っ黒な顔
 毎日野外生活しているのでしょう真っ黒な顔です。服や手も汚れています。顔の黒さも汚れが加わっているのでしょう。

上半身はだかの陽に焼けてること
 パンツ一枚で真っ黒に陽に焼けて
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by tatazumi | 2011-01-19 01:11 | 橘安純 | Comments(0)