『句集 風懐に歩三昧 幸月』より
毎日巡礼ヒロユキが気に入った句
『句集 風懐に歩三昧 幸月』
2003年7月1日 初版一刷発行
著者 幸月
発行者 松坂 義晃
発行所 株式会社シンメディア(旧社名:株式会社ふぃっつ)
風懐に千日遍路 12 風懐かぜふところ
春光やそしる言葉を聞き流す 13
田の中の幸月に鳴く蛙哉 14 蛙かわず
老耄れたり女遍路に追ひ越され 14 老耄おいぼ
胃袋の清水がぼがぼ山下り 16 *1
松根に押され傾く遍路の碑 18
寝袋に蟹の割込む浦泊まり 18
四万十の鰻にこもる川の味 19
そこに寝ないで下さい疲れた遍路続ける 24
草の穂に虫の歩みの撓みかな 24 撓たわ
どこ踏んでも落葉 25
野佛に微笑返し霜の道 26
懐手人には言へぬ事ばかり 26
朝寒の愚痴も一言観世音 28
自業自得寒風に貌さらす 29 貌かお
土に寝て何の痛かろう寒からう 29
節分の君は鬼かよ吹雪中 30
四万十川遍路笠伏す霙哉 31 霙みぞれ
薬王寺寝袋薄き餘寒哉 32
惣門の花を褥に熊谷寺 34 褥しとね
懐中電灯夏草照らす遍路食 35
歩一歩佛に会える 35 歩一歩ほいっぽ
歯長峠胡頽子も遍路の糧と摘む 39 胡頽子ぐみ
良心市休み巣を張る女郎蜘蛛 39
吾が故郷に墓も無し 40
楊桃のすっぱきを噛み童たり 41 楊桃やまもも
汗の手で錫杖の汗拭き落とす 41 錫杖しゃくじょう
日銭得て買ひし秋刀魚の血滴る 43
秋嵐室戸に張りし幕千切れ 44
ホームレス父の日されどホームレス 46
梅雨凌ぐ錫杖幕の一柱 48 凌しの
梅雨享けて山のバス停椀洗ふ 48 享う
爽やか般若心経御佛に 49
遍路墓没年不明苔深し 50
墓地野宿阿弥陀如来にお頼み申す 53
お参りを済ませ紅差す遍路哉 57
結願寺残り賽銭皆入れて 58
豆腐半丁うどん一玉遍路食 59
遍路靴底に沁み込む時雨哉 60
柿供え吾も遍路よ遍路墓 61
濡れ落葉丁石佛に励まされ 62
冬遍路来たり去り行く風となり 63
秋の夜捨て猫髯にうづくまる 68 髯ひげ
遍路の死心あらば伝へてよ 69
龍神宮恵みの茣蓙を掛布団 70 茣蓙ござ
宿無しの遍路に給ふホッカロン 70
雪解の跳泥かぶる三坂越え 71
寝袋の氷柱拂ひし旅仕度 72
水ボトル凍てり遍路の米炊けず 73
朝寒や煮炊きコンロの火も細る 73
初日影身の行末を問ひにけり 74
時雨ふる乾かぬ肌着抱き寝る 75 抱いだ
新町橋憩う遍路の冬景色 75
辿り来て凍飯喰らふ寺の隅 76
堂寒し無名遍路に香を炷く 81
氏名不詳遍路の遺骨岩本寺 81
遍路佛遺す言葉の無かりしか 81
夢たぐり果てず老知る寒夜哉 83
虎落笛宿は日和佐の無人駅 84 虎落笛もがりぶえ
初燕山麓駅に同宿す 85
遍路地図破れ貼り繼ぐ熱帯夜 102
堪え難し嘆く再会老遍路 105
死んだとて泣く人も無し草遍路 106
暑き夜吾人生を読み返す 106
寝袋竝べ女遍路は孫の如 109 竝なら
行乞の泪は人に見せぬもの 112
杖杉庵風懐に生涯遍路 112
桧葉を褥に梅雨の遍路哉 112 桧葉ひのきば褥しとね
遍路墓あなたの分も廻ってあげる 113
蟋蟀に鳴かれつ眠る草遍路 113 蟋蟀こおろぎ
土に挿す線香烟る遍路墓 116 烟けむ
辨当にお布施潜ませ見送られ 118
大師堂渋柿も熟れ遍路食 118
南光坊三日時雨つ門を宿 119
冬陽押す台車の腕のてんと虫 120
何故急ぐ何れ死が来る木枯らしに 121
歩遍路沈む冬陽に腰下す 121 歩かち
草遍路涯は大師の懐に 123
一面の秋櫻老を浸しけり 123
佛木寺門灯届く冬野宿 126
老の顎もぐもぐ飯喰らう寺時雨 126 *1 顎あご
草遍路乞食に貰ふ握飯 128
昏迅し松崎バス停宿処 129 昏迅くれはや
菓子函を膳に据ゑ置く草遍路 129
帰れない帰る辺も無し枯遍路 130
一滴の命いただく 130
寝袋の中の寝返り寒浸みる 131
接待の心にふれし冬遍路 131
寒雷の雨叩き付け廂宿 132 廂ひさし
遍路衣は冬の陽に干し髯を抜く 132
氏素性口を開き寒蜆 135 蜆しじみ
寒の雨井月の碑と傘の下 136 井月せいげつ
凍る寝袋深夜ラジオの三味の音 145
風懐に歩三昧 145
寒風や又砂を出す破れ靴 146
冴返る疑土の寝袋薄眠り 147 疑土たたき
日向ぼこ半眼の犬吠えもせず 174
錫杖の音に遠吠ゆる冬の夜 174 錫杖しゃくじょう
元旦やなんで野宿の天邪鬼 177 天邪鬼あまのじゃく
漂々風に押され 180 漂ひょう
飴玉一つ呉し婆さん「口い入れろ」 181 呉くれ
振り返り振りかえり日沈みの海 182
「どうして遍路」又も訊かれて濡時雨 183 訊
寒風に吹かれ傾く老い哀し 183
白鼻芯軋死の骸葬れり 188 白鼻芯はくびしん軋死れきし骸むくろ
つくしんぼと語らひ乍ら尿糞 193 乍なか
寝返りす硬きベンチに春の雷 197
春嵐ブルーシート宙を舞ふ 197
五年餘を捨てし割箸草遍路 200
何時の日か刻まぬ時計草遍路 200
お布施頂く行商姥の三百円 201
逝く遍路生きる遍路の野宿床 201 宿毛道の駅
羽根一枚失せし蜻蛉に膝を借す 203 伊田浦観音
蝉時雨過去にもどれぬ命哉 210
蚊百匹叩いても襲ひくる 211
逃げる蛾を掴み蜻蛉は喰みにけり 212 掴つか
満点の星空風よ草枕 212 終戦五十七年目の夜
野宿床砂吹き散らす台風圏 213
蛙鳴く不審尋問蛙鳴く 214
朽ち枯れし献花に青し雨蛙 215
秋風や鳥の屍吊られけり 215 屍かばね
大麻比子秋の疎水に衣を濯ぐ 217
歩一歩佛になれる 218
吾が肌に止まりて果つる蛾なりけり 218
軋かれたる蛇の鱗の白光り 221
雲辺寺山懐に通草喰む 225 通草あけび
網代笠蔓振り受ける零余子採り 226 零余子むかご
零余子飯潰しつゝ喰む歯無し爺 227
桜葉の緋きを愛でて拾いけり 229 桜葉さくらば緋あか
吾が影に散りてし落葉重ねけり 232
冬木立腕に日射しの影一枝 232
三坂越えバス停二夕夜の時雨宿 233
すゝき穂の誰に手まねきして御座る 233
不生不滅今日の寝床の雪の上 235
生きて行くから歩くんだ 236
冬野原吾が行先の見えにけり 237
又一つ墓石転がる冬の道 239
若き男女と二日の宴狸汁 242
冬木立揺れて哀しき夜となり 243
東屋の貌に吹き込む細雪 243
峠迄雪を残せし足の跡 245
粕汁のお布施身に沁む遍路哉 247
冬ざれや四万十川辺小えび採り 248
駅舎で飯を喰べないで霜野の食事 249
ずぶ濡れの時雨テントに身を縮め 251
過去があり来世に繋ぐ遍路哉 253
(全146句)
* 句の後の数字は句集の頁数です。原本では旧字体を多く使っています、断りの無い限り旧字体のまま表示しました。原本で付いていたルビ、ふりがなは省略しました。読みにくい漢字は頁数の後に漢字と、ふりがなを示しました。その句の詞書も頁数の後に示しました。
*1 原本ではひらがな二字の繰り返しを「く」様の表示で示していましたが、ここでは平仮名をそのまま繰り返ししました。

