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蛙なく不審尋問蛙なく 名もなき小さき力なき それでも声をあげる 草や路上 汗にまぎれた生活の詩


by tatazumi
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人生の詩  中宮竜善5

寄場日雇・野宿生活 私の出会った詩と詩人51 橘安純

人生の詩           中宮竜善5





●我息吹

枯れ木の中から

一粒の新芽が息を吹き、

生をなし、

押し潰されながらも、

この世の物を我身に焼き付けんとする、

自然の力強さ、広大さに

眼を向けさせてくれた、

この地、釜ヶ崎に根をおろしてゆきたい。

●流秘

冷風にあおられ、寒風に身をちぢめ

眠りつく淋しさを誰にも流秘にして

雑踏の中

晴れやかな輝きを求めて

露雨に素裸をたたき

我身を世間にさらけだす無残さを

誰にも流秘にして

雑街の中へ

澄みやかなネオンを求めて

秘めて 流れ路地へ

●浮浪の旅

人生の浮き沈み、はげしく

幸福という島にたどりつくこと能わず

浮浪人生の旅となる

一人寂しく涙も枯れ、わびしく

幼なき夢 胸に託し 寝返りうち

浮浪人生の夢となる

故郷にかえりたくも みずほしく

叫び声空しく 帰ること出来ず

浮浪人生の唄となる。

●灯が見たものは

寒むざむとした 夕暮に

ネオンが所々に灯りはじめ

人々の足どりも 早やばやと

家路へ 家路へと急ぐ。



夜も更けて 吹きすさぶ風の中

ネオンもポツリ、ポツリ消えはじめ

暖簾がザワザワと人々の雑談耳にし

気にもかけず 一人静かに グラス

片手に

帰りたくも 帰る所もなく

カーライトの灯り 電灯がわりにし

道路高架下で 毛布一枚だ眠る。

他人は 嘲るように我の場を 去り

ゆく。

*暖簾:のれん 嘲る:あざける

●流息 我身

鼻息もあらく 通り過ぎ

一息下がりの瞳で 家路へと去りゆく

一人ぼっちで 人雑な街並みを

さまよい歩く

我身のつらさ 誰も知らず



冷風にあおられて 人生を歩みゆく

我息の流れ 延命の心隠し通し

一人ぼっちで ネオン街をさまよい

歩く

我息の強さ 誰も知らず



世間の雑息に 心情をかくし

生きる仲間の 生命の強さを

我心に与え 生きる勇気を秘め

さまよい歩く

生命の強さ 誰も知らず
# by tatazumi | 2011-03-13 11:27 | 中宮竜善 | Comments(0)

杉原洋二3

寄場日雇・野宿生活 私の出会った詩と詩人52 橘安純

杉原洋二3           





●生きてくれ

仕事に行ける人と行けない人との

ギャップの大きいこの釜ヶ崎

生きてくれ、野たれ死にするな

生きていた以上、生きて生きて

そして死んでくれ、

俺はそう思う、

生きよう、生きろう、生きていなければならない

釜ヶ崎なんてないほうがよい

しかし今の「日本」では、

競争のはげしいものだと分かっていても、

生きて、生きて、生きぬくことに

自分の人生に勝つ

おいでよ釜ヶ崎へ

ドロボーしなければと

思っている アンタ

釜ヶ崎で一日日雇いやりなよ

11500円しかもらえないが

汗流して得る金

そして帰り道ルン・ルンだ

スリルを味わいながら

ドロボー稼業で食べるよりましだよ

だってそうだろう

ビクビクしながらそしてポリ公見たら

かくれたり、逃げたりでは

休まる日はないだろう

日雇いはいいぞ

一日仕事行ってしんどかったら

休めばいいし

金がなければ八時間がまんすれば良い

ドロボーをしようと思っている人

おいでよ釜ヶ崎へ (寄場詩人13)

●ブレイカー

ブレイカーが鳴りひびく

くずれ落ちるガラが

コンクリートの床に

スコップで、一輪車に入れる

汗が出、顔がホコリで白く

タオルでふくが

それでも白い顔が汗とまじる

ホースをたぐる

シューと大きな音を出し

ブレイカーを動かす力がある

ダッ、ダッ、ダッ、ダッ

シュー、シュー、シュー

ブレイカー三十番が二十番が

重さを忘れ、目標にむかって

ダッ、ダッ、ダッ、とはつる

飛びちるガラ (寄場詩人35)

●線路

阪堺線の線路上を歩く

赤さびたレールの歴史が物語る

1961年始めて釜ヶ崎暴動の時

武器となった石がアスファルトの下にうまっている

今池の高架上を歩いていると

小ネコが泣いている

親からはぐれたのか

すてられたのか

線路ぞいの家並に生活が見える

木造でつくられた家のワキの植木に

水をかけている年老いた男が

俺を見る

くちぶえを吹きつつまくらぎを飛ぶように歩く、天下茶屋の街並が見える
# by tatazumi | 2011-03-13 11:23 | 杉原洋二 | Comments(0)

人生の詩 中宮竜善4

寄場日雇・野宿生活 私の出会った詩と詩人50 橘安純

人生の詩           中宮竜善4





●同志世界

うす汚れた私の姿を

誰もが どことなく見て

そして 爪弾きするかのように

声をかけてくれることすらなく

遠ざかり 私の前から離れてゆく。

人は誰も この地上で生まれ育ち

言語はちがっても

同じ人間であることにかわりない。

人間として生活を営む場が

どこで生活あろうとも

人間であることにかわりない

私の心情を分かってほしい

●我身の心

夕日の沈む路地から路地へ

当てもなく廃品物資を

貪るように、集めて廻り

一日の糧として金品に変える時の

空しさを誰が知る。

突風が吹き抜け、寒さに体をふるわせ

ビルの軒先を転々と寝ぐらをさがし

さまよい歩き

人の生活の安眠すら知らず

寒風に身をさらす惨めな己が姿の思いを誰が知る。

*貪る:むさぼる 惨め:みじめ

●日々の如く

世間は 野良 流れ者と

我々を軽蔑し、かつ恐れている

我々も同じ世間に生まれ

生活を営んでいる人間だと知ってほしい



我々は一般社会で嫌われている

三Kという仕事に日々の糧を求め

生活の灯を精一杯かかげた生活を

営んでることを知ってほしい



我々には日々仕事ができるわけではなく

仲間の全てが仕事にありつけるとは限らない。

その日、その日の暮らしで枕する所すらなく

野宿に追いやられ

貧窮の生活にあえいでいる仲間がいることを知ってほしい

 *糧:かて 貧窮:ひんきゅう

●流変街

放浪の心を秘め、

憧れと夢を抱き、

この街へたどりつき

見れば、なぜか人雑でうすく暗く

夢も消え、心満たすことも出来ず

誰からも見離され

一人ぽっちの流変街なり。

雑街の中から新芽が生まれ育ち

若木の街に望み抱き歩み寄れども

身を寄せる所なく 流変街なり。

●路地裏人生

この地にある各路地には

隠れた人生があり

一人、一人の生命を育む

路地裏に人生という流れが生きている

どこの街にもある路地なのに

この地の路地裏には人の心を引き寄せ

命を与えてくれる息吹がある。

流れ歩く一人、一人の心に

ふんわりとした温かい綿雲を与えてくれる路地裏人生

そこには人生の苦しみ、悲しみが漂うなのに なぜか

知らず、知らず心が引き寄せられ

生きる勇気を与えてくれる

この地の路地裏にも

密やかで、確かに人生がある。
# by tatazumi | 2011-03-13 11:18 | 中宮竜善 | Comments(0)

全作品目録

全作品目録
橘安純作品集
●道路舗装工事 他6遍
 道路舗装工事
 こあくとうと おおあくとう
 起りえない事故が、なぜ起るのか?
 ビラはりしていてパクられた
 ひさしぶり
 すてきな時間
 一日
●私の体は片焼きせんべい 他2編
 私の体は片焼きせんべい 
 汗がでる
 日ごと
●雨 他3編
 雨
 雨の仕事
 六月のある日
 あめふり
●冬の朝
●そうやって朝は早くなる 他7編
 そうやって朝は早くなる
 一瞬の朝
 仕事がなくなって
 ねんき
 アンコウ
 カラッケツ
 頭を下げなかった
 きせきはおこらなっかった
●涙はでるさ
●座る その女性の場合(日本全国プランター覆いつくし計画の陰謀)
●ウダウダ
●ギシギシ ガタゴト
●今日の仕事
●自句自解「句集地球にねてる」
●野宿生活春夏秋冬 

川口五郎作品集
●ジョーの獄中詩川口五郎3
 ドヤ
●ジョーの獄中詩川口五郎2
 野たれ死に!
●ジョーの獄中詩川口五郎1
 雨降り

井之川巨作品集
●冬に向かって行け詩集未掲載
●武器はみんな捨てろ
●もしも僕が死んだら
●おれたちは怒っている(マヤコフスキーと言うべきか2)詩集未掲載
●越冬闘争の詩(マヤコフスキーと言うべきか1)詩集未掲載
●ひばり讃江
●友、アジアより来たる
●殺すな ―「内ゲバ」に反対する詩
●日和見主義の方法
●電話
●春浅く左肝ひとつ
●ピーの話
●あるコピーライターの来歴
●おれたちはいま燃えるいのちだ詩集未掲載
●暴動こそ正義だ詩集未掲載
●やくざの用心棒を許さない詩集未掲載
不戦六十年の夜に 

森ひろし作品集
●人間の季節 (寄場のピカイチ詩人 森ひろし3)
●足  (寄場のピカイチ詩人 森ひろし2)
●山谷人生 (寄場のピカイチ詩人 森ひろし1)
●冬のうた
●山谷の冬
●ふるさとのうた
●人間の谷間か

中宮竜善作品集
●人生の詩 中宮竜善5
 我息吹
 流秘
 流浪の旅
 灯が見たものは
 流息我身
●人生の詩 中宮竜善4
 同志世界
 我身の心
 日々の如く
 流変街
●人生の詩 中宮竜善3
 我生命
●人生の詩 中宮竜善2
 路地裏人生
 流息 我身
 煙幕の中で
 流変街
 灯が見たものは
●人生の詩 中宮竜善1
 街角
 心の叫び
 雑踏の息吹

バルサン作品集
●バルサン2
 日雇い‘95
 抑圧時間
●バルサン1
 92初夏仕事への再生
 腹の虫

田仁多憲治作品集
●非国民宣言 田仁多憲治4
 やってられねえパート2
 戦争
 東拘午前2じ
●非国民宣言 田仁多憲治3  
 ある飯場で
 山谷暴動
●非国民宣言 田仁多憲治2
 東拘午前2じ
●非国民宣言 田仁多憲治1
 非国民宣言
 精神病棟

松原 忍作品集
●釜ヶ崎羅漢   松原 忍2
 釜ヶ崎
 ある風景
 戦慄
●釜ヶ崎羅漢   松原 忍1
 釜ヶ崎日記抄

杉原 洋二作品集
●杉原 洋二3
 生きてくれ
 ブレイカー
 線路
●杉原 洋二2
 かけ声
 さびしいんだ!
 三角公園
●杉原 洋二1
 釜ヶ崎
 酒と日雇い

大石 太作品集
●おらホームレス 大石 太2
●おらホームレス 大石 太1

木山早織作品集
●木山早織2
 おっちゃん
 釜ヶ崎のお父さん
●木山早織1
 右手
 夜まわり

□□□□さん作品集
●□□□□さん
 祈り
 今日は祭りだよ!

種田山頭火作品集
●山頭火の野宿

市川 栄一郎作品集
●あの日あの時    市川 栄一郎
# by tatazumi | 2011-03-11 11:54 | 全作品目録 | Comments(0)
●あるコピーライターの来歴  井之川巨

1 前史
ことばは
傷つき倒れていた。
しかもことばは
飢えていた。
さっきまで共にスクラムを組んでいた仲間たちは
どこへ消えてしまったのだろうか。
傷はいたむし
空腹はさらに募るし
深まる夜とともに寒さも厳しくなった。
そのときだ、ことばに手をさしのべる
救いの女神が現れたのは。
彼女はことばをわが家へ連れ帰り
温かいスープとベットと
傷口をおおう白い綿布を与えた。
翌日からことばは
プラカードの文字を
〝ヤンキーゴーホーム〟から
〝冬物大バーゲン〟に書き替え
盛り場の四辻に立つことになった。
新聞紙の下段に登場し
電車のなかにぶら下がることになった。
なぜなら
彼女の名は〝広告〟だったから。
この日から、革命のプロパガンダは
コマーシャルのメッセージに変身した。
ことばは
コピーライターを志願した。
それはことばにとって
世を忍ぶ仮の姿。

2 テスト
「じゃあ、これから
実技による入社テストをおこないます」
長髪がカッコいいアートディレクター氏はいった。
「課題はこのコップ。
コップのキャッチフレーズを考えてください。
持ち時間は一時間
なるべくたくさん書いてください」
よーい、どん。
さっそく鉛筆を走らせるコピーライターの卵たち。
光るコップ。
美しいコップ。
透明なコップ。
手の中のコップ。
冷たいコップ。
クール、クール、クール、コップ
お口の恋人コップ。
初恋の味、コップ。
健康ですが、コップ。
スカッと爽やか、コップ。
なんである、コップである。
(どこかで聞いたことがあるな)
割れないコップ。
安全なコップ。
頑丈なコップ。
テーブルから落としてみてください、コップ。
熱湯を注いでみてください、コップ。
公害のないコップ。
添加剤を使わないコップ。
ボクの友達、コップ。
贈答にはコップ。
貰って嬉しいコップ。
信頼のしるし、コップ。
友情のコップ。
愛のコップ。
コップ、コップ、コップ。
コップばんざい。
広告のテクノクラートになるための
第一の関門

3 初対面
シャンデリヤが
ぴかぴか光っているレストラン。
「これが
こんど入ったコップ君です。
コップ広告賞をとった優秀なコピーライターです」
と、ディレクター氏。
「どうぞよろしく」とコップ君。
「まず一言いっておきます。うちの仕事をやって
広告コンペで賞なんかとろうと思わないで下さい。
賞なんかとれなくていい。
うちの商品が売れさえすればいいんです。
売れるコピーを書いてください」
クライアントのエグゼクチィブ氏に
コップ君は初対面で痛烈なフックをくらった。

4 盗む
コップ君は毎日
大量のことばを生産した。
あしたに色鮮やかなカラーテレビの広告
昼に緑にかこまれた分譲住宅の広告。
夕べに暮らしを豊かにするあなたの銀行の広告
ことばの量産作業は
しばしば夜が白々明けるまでおこなわれた。
それは彼が工場で働いていたときにも
なかった経験だった。
昔の仲間に会うとコップ君はいった。
「ふん、どうせ資本主義の尖兵の仕事さ」
そう自嘲めいていいながらも彼は
糸を吐きだす蚕のように
ことばをつぎつぎ吐きだす快感を味わっていた。
インクの匂いも新しい〝作品〟を
せっせとファイルブックに貯えていった。
「工場でボール盤のハンドルを握っているより
やはりおれには向いているようだな」
彼はいった。
「なんていったって
クリエイティブな仕事だからな」
そうもいった。
しかし
コップの容量には限りがある。
ことばを浪費すれば
ことばの貯蔵庫には在庫がなくなってしまう。

そこで手当たり次第
どこからかことばを盗んでくる。
百科事典から盗む。
ことわざ辞典から盗む。
流行歌や童謡のなかから盗む。
新聞から雑誌から
テレビから映画から盗む。
いい替える。
逆さにする。
ばらばらにする。
くっつける。
(そんなときノリとハサミを使う)
顔だけとりかえる。
衣装を替える。
色を替える。
場所を替える。
年代を替える。
性別を替える。
季節を替える。
商品を替える。
メディアを替える。
朝起きてから寝るまでの時
月曜から日曜日までの日
一月から十二月までの歳時
生まれてから死ぬまでのライフサイクル。
すべての素材を一本の物差しではかり
一本のカッターナイフで切り
一本のペンで書きあげる。
整形され
化粧し直し
ドレスアップされた新しい創造の世界が
原稿用紙のマス目のなかによみがえる。
コピーライターに不可能はない!

5 馬
コップ君は書く。
逃げる馬を追いかける。
馬を水飲み場まで連れていき
なんとか腹いっぱい水を飲ませようとする。
逃げる馬とは消費者のこと。
そして売上げ記録に挑戦する。
広告コンペに挑戦する。
あるときは囁きかけ
あるときは大声はりあげる。
一九六〇年代幕開けの新聞を飾る
颯爽たる姿のキャッチフレーズたち。

アラスカの木は二度太平洋を渡ります、ヤマハピアノ。
「人間」らしくやりたいな、トリスウイスキー。
キモノでごめん遊ばせ、東レ。
パリからトーキョーへ、カルダンがやって来た、高島屋。
〈アンネの日〉ときめました、アンネナプキン。
世界のSONY、一二〇ヶ国に。
国境のないカメラ、キヤノン。
十秒間で美しい写真ができる、ポラロイドカメラ。
堀江君が帰ってきた…おめでとう〈マーメイド号〉、シキボウ。
桂離宮も見ました、キヤノンも買いました。
シャーベットトーン、資生堂口紅。
価値あるアリナミン。
スカッとさわやかコカ・コーラ。
ハンコよりあなたです、三菱サイン預金。
今日から複写革命が始まる、富士ゼロックス。

世界に羽ばたく日本をうたい
商品が奏でるロマンをうたい
広告がひらく地平をうたう。
街をゆくとき
コップ君が着るカルダンスーツの肩は
確かに風を切っていた。

6 愛
コップ君は砂に書く、愛という字を
それを読むのはかもめだけ。コップ君は手紙に書く、愛という字を
それを読むのはあの人だけ。コップ君は広告に書く、愛という字を
それを読むのは百万の人びと。
広告の愛は刈りこまれ化粧された
みごとなタイポグラフィー。
ディレクターのコンセプトの軌道のうえで
デザイナーのテクニックで磨きをかけられ
クライアントの笑顔で公認された愛。
愛はプリントされ電波にのって
日本中の家々のドアをノックする。
トントン、愛しています。
トントン、愛してください。そんごくうの如意棒の先から誕生する
そんごくうA
そんごくうB
そんごくうCのように
複製の愛は
日本中の規格サイズのドアをノックする。
トントン、愛してます。
トントン、愛してください。
それはしかし
コップ君がかつて砂のうえに書いた愛
あの人と二人だけの心に刻んだ愛ではない。

7 空気
朝、目を覚ますと
蒲団のなかで新聞を読む。
読むのは下段から、つまり広告欄を先に読む。
それからニュース見る。
実はニュース欄だって広告とあまり違いはないのだが……。
高級官僚をスポンサーにしたPR記事。
大企業をスポンサーにしたパブリシティ。
コップ君がつくった広告のタイアップ記事も
今朝の新聞の片隅に光っている。
朝食をとりながらテレビを見る。
番組の間はおかずを眺め
CMタイムにはブラウン管を見つめる。
電車に乗ると中吊り広告を見る。
街をゆくときは看板やウインド広告を見る。
タクシーに乗る、車内広告がある。
デパートに飛び込む、POP広告がある。
商品を買う、パッケージも広告だ。
喫茶店にはいる、持ってきたカップも
マッチもレシートの片面もみんな広告だ。
外へ出れば
空には今日もアドバルーン。
広告、
広告、
広告、
……。
ああ、日本列島の空はまさに
酸素と窒素と
排気ガスと
広告でできている!

8 会議
「それでは
これから会議をはじめます。
今日の議題は〝明日の広告王国をめざして〟」
どうしたらもっと広告を見せられるか。
広告に感動させられるか。
商品を買わせることができるか。
企業の思想を普及することができるか。

それには━━とA君。
テレビ番組はすべてスポンサーつきなのに
なんで新聞記事にスポンサーがついていないのか。
これをテレビ並にすることだ。
新聞だけでなく雑誌にのる論文や小説類もまた然り。

それよりも━━とB君。
もっと新しいメディアを開発することだ。
たとえば道路も街もメディアだ。
山や川もメディアだ。
広告とは環境のことである。
富士山にシンボルマークを印刷できないか。
太平洋をコーポレートカラーで染められないか。
青空にだって、白い雲にだって
地球そのものにだって
太陽にだって広告できるはずだ。

もっと身近なところで━━とC君。
人間そのものがメディアだ。一億日本人をすべて
メディアとして買いきることだ。

そのトレードキャラクターには━━とD君。
天皇をスカウトすることだ。
天皇と同じ朝食をどうぞ。
天皇のフォーマル・ウエアをあなたに。
天皇のロールス・ロイスが当たる。
天皇と一緒にハワイへ行こう。
なんてったって天皇は日本一のスーパースターだからな。
プレミアムにだって
イベントにだって使えるぜ。

ぼくが思うに━━とK君。
メディアは脳細胞それ自体だ。
だからこれにX線、ガンマ線、
ベーター線、アルファ線をミックスさせて
直接情報を送り届けることだってできる。
脳波を操作する。
睡眠中にインプットする。
すると彼は目を覚ましたとき
きっと広告商品を食べたいと思うだろう。

コップ君は鼻毛を抜き抜き思った。
広告界にはなんと
ヒトラーやゲッペルスのエピゴーネン達が
多いことだろうか、と。

9 自殺
ある日の朝
こんな新聞の見出しが目にはいった。
━━「のんびり行こうよ」破産。
  「夢がないのに夢売れぬ」と遺書。
  テレビのディレクター自殺。
テレビCM界の鬼才とうたわれた
杉山登志、三十七歳。
場所は東京赤坂のマンション自室。
遺書にはこう書いてあったという
━━リッチでないのに
  リッチな世界などわかりません。
  ハッピーでないのに
  ハッピーな世界などえがけません
  「夢」がないのに
  「夢」をうることなど……とても。
  嘘をついてもばれるのです。
モービル石油の
資生堂の
トヨタ自動車の
イメージビルディングに貢献した
ひとりの男の死。
自分の死までが
秀れたコマーシャルメッセージになっているのが
コップ君には悲しい。

10 罪悪
ある日
新聞の片隅に小さく並んだ活字。
「不動産会社倒産」
しかしその不動産会社の広告は
先月までその新聞に
大声をはりあげてはいなかったか。
しかもそのコピーを書いていたのは
他ならぬコップ君自身ではなかったか。
またある日
新聞に恥かしそうに並んだ活字。
「メーカー欠陥商品を回収」
そのメーカーの広告キャンペーンは
いままさにコップ君の手で
企画書として書かれつつあるのではなかったか。
「実際に使ってみたけど
うちの製品はあまり良くないんだ。
しかしそんなこと書いてもらっちゃ困るよ」
とクライアント氏。

「イメージを売ろう。
欲望を刺激しよう。
消費者のライフスタイルを広告がつくるんだ」
と広告代理店のAE氏。
広告学校で習った
アイドマの法則というやつ。
A attention(アテンション)
I interest (インタレスト)
D desire (ディザイアー)
M memory (メモリー)
A action (アクション)
AE氏の話を頭上に聞きながら
コップ君はスケッチブックにいたずら書きしていた。
A 愛してますなんて
I インチキいいながら
D だまして
M もうけるなんてもう
A あきあきです

11 激突
ことばは
累々と横たわっていた。
ことばは手足をもがれ
目や耳を失い
暁闇のなかに倒れていた。
いつまで待っても
やさしく手をさしのべる女神は現れてくれない。
ことばの隊列は
どこへいってしまったのだ。
遠くで喊声をあげる気配がある。
戦闘をくりひろげる気配がある。
広告のことばと反広告のことばの激突!
味方はどこだ。
敵はどいつだ。
ああ、世界を忍ぶ仮の姿ではなく
ほんとうに復帰すべきおれのことばの原隊は
いったいどこにあるんだ。
    (詩集「死者よ甦れ」より)

※尖兵=せんぺい、喊声=かんせい
# by tatazumi | 2011-02-13 22:21 | 井之川巨 | Comments(0)