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蛙なく不審尋問蛙なく 名もなき小さき力なき それでも声をあげる 草や路上 汗にまぎれた生活の詩


by tatazumi
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山頭火の野宿 種田山頭火

山頭火の野宿
     野宿に関わるものを中心に
     山頭火の句を紹介します。

山頭火って知っていますか、昭和初期の俳人です。俳句誌では定期的に特集がくまています。テレビでも時々、取り上げられる人です。
現在、週刊漫画誌『モーニング』に「いわしげ孝」が『まっすぐな道でさみしい 種田山頭火外伝』を連載しています。
死後六十年あまりですが、今でも人気があり、山頭火を扱えば視聴率や販売数が上がるそうです。
こんな句が良く知られています。

分け入つても分け入つても青い山
鉄鉢の中へも霰
うしろすがたのしぐれていくか
おとはしぐれか
もりもりもりあがる雲へ歩む

山頭火は僧侶として家々を回り、米や金銭をもらうことで(托鉢)生計を建てながら、旅をしていた。そのみすぼらしい身なりで宿泊を断られたり、また収入が無かった時に野宿となりました。
また庵を構えていた時にも泥酔して野宿することがよくあった。
 彼は各地の知り合い(句友)を頼り、宿泊飲食をした。また道中で困れば郵便局留めで送金してもらっている。

ここで泊ろうつくつくぼうし
大地に寝て鶏の声したしや
酔いざめの星がまたたいている
どなたかかけてくださった莚あたたかし
酔うてこほろぎと寝ていたよ
落葉しいて寝て樹洩れ日のしづか
寝るところが見つからないふるさとの空
今夜の寝床を求むべきぬかるみ
あほむけ寝れば天井がない宿で
風のなか酔うて寝ている一人
夜露もしっとり春であります
まどろめばふるさとの夢の葦の葉ずれ
枯草しいて月をまうへに
秋風こんやも星空のました
落葉しいて寝るよりほかない
           山のうつくしさ
生きる身のいのちかなしく月澄みわたるこんやはひとり波音につつまれて
食べて寝て月がさしいる岩穴
泊るところがないどかりと暮れた
わが手わが足われにあたたかく寝る
ここで寝るとする草の実のこぼれる
ねるところがないどかりと暮れた

托鉢は僧侶が門前でお経を唱え、米やお金をもらう修行の一つである。山頭火はその金で酒を飲み、ときには遊郭へも行った。托鉢の厳しい規律を守っていたとはいえない。

炎天をいただいて乞い歩く
家を持たない秋がふかうなった
寝るだけが楽しみの寝床だけはある
ホイトウとよばれる村のしぐれかな
けふはここ、あすはどこ、あさっては
どうしようもないわたしが歩いている
捨てきれない荷物のおもさまえうしろ
あるだけのものを着てあたたかうをる
何でこんなにさみしい風ふく
どうにもならない矛盾が炎天
蜩よ、私は私の寝床を持っている
家を持たない秋がふかうなるばかり
しぐれて暮れてさて寝るとしよう
ぐっすりと寝たいだけ寝て起きて雪
げそりと暮れて年とった
炎天、はてもなくさまよふ
トップリ暮れて一人である
雑草よこだわりなく私も生きている
何を求める風の中行く
みんなかへる家はあるゆうべのゆきき
石を枕に雲のゆくへを
歩くほかない秋の雨ふりつのる
ついてくる犬よおまえも宿なしか
日向ぼこして生きぬいてきた
         といったやうな顔で
咲いて一りんほんに一りん
銭がない物がない歯がない一人
この旅、果もない旅のつくつくぼうし
ぼろ着て着ぶくれておめでたい顔で1

山頭火は当時、無季自由律の俳句界ではスター的存在で、句友に歓待され馳走になることはあった。しかしそれ以外は貧しい食事であった。
金があれば酒を飲んだ、栄養状態は悪く歯はかけ、とてもふけて見えた。米をうまく炊くと自認している。
よく句友に援助を求めているから絶食が続いたとしても、餓死の恐れはなかったはずだ。

しみじみ食べる飯ばかりの飯である
食べるもの食べつくしてひとり
お茶でもすませる今日が暮れた
あるだけの米を炊いて置く
貧しさは水を飲んだり花を眺めたり
食べるもの食べつくして
       何を考えるでもない冬夜
闇が空腹
水の音、飯ばかりの飯をかむ
最後の飯の一粒まで今日が終った
一つあれば事足るくらしの火を燃やす
食べるもの食べつくしたる旅に出る
風ひかる今日の御飯だけはある
月のひかりの
     すき腹ふかくしみとうるなり
太陽うずまく
     食べる物がないので食べない
もらうて食べるおいしさ有りがたさ
しぐるるやあるだけの御飯よう炊けた
草にすわり飯ばかりの飯をしみじみ

山頭火は電車の前に立ちはだかったり、無銭で豪遊するなど酒の上での失態を数々起こしている。尻拭いは句友にまかせきりにして、本人は。酔いからさめると自己嫌悪に陥り旅にでるのだった。

酔いしれて路上にねむる一ときは
      安くもあらん起したまふな
酔いどれも踊りつかれてぬくい雨
酒がやめられない木の芽草の芽
酒がほしいゆふべのさみだれてくれ
何もかも捨ててしまはう
         酒杯の酒がこぼれる
風のなか酔うて寝ている一人
酔いざめの風のかなしく吹きぬける
なにもかも一人でよろしい冬の夜の酒
ぼろ売って酒買うてさみしくもあるか
おもいでがそれからそれへ酒のこぼれて
ほろほろ酔うて木の葉ふる



平成に社会問題と成っている野宿と山頭火の野宿とはまったくあり方が違う。
山頭火の一番の関心事は句作であり、そのために旅をし、野宿をするのだ。彼は各地の知り合い(句友)を頼り、宿泊飲食をした。また道中で困れば郵便局留めで送金してもらっている。句友に迷惑をかけながらも愛された憎めない存在だったようです。
私は日雇労働をしてきて、今は野宿していますが、山頭火に似た憎めない人を見てきています。それで山頭火をとても近しく思えるのです。

講談社スーパー文庫『山頭火大全』を底本とした。
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by tatazumi | 2011-01-19 00:56 | 種田山頭火 | Comments(0)