「ほっ」と。キャンペーン

闇がおおうと コウモリが飛び交った


by tatazumi
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28
●不戦六十年の夜に 
       井之川巨
狼は狼を殺さぬという
戦意を失った相手に牙は向けない
人間は人間を殺す
戦争捕虜を辱め虫けらのように殺戮する

いまから六十年前にあったこと
銃を向けたくない
銃を向けられたくない
あの不戦の誓いはどこへ行った

アメリカは民主主義の国ですと教師は言った
(鬼畜米英と教えたのは誰?)
二度と戦争はくり返さないと政治家は言った
(お国のために死ねと命じたのは誰?)

自由と民主主義を約束したはずの米軍が
流血の海、死体の山をつくった
ある兵士は精神を病み
べつの兵士は脱走を決意する

ようやく雪がやんだ昼下がり
町から村へのはるかな一本道を
煤で汚れて無言の人々がやってくる
いまから六十年前にあったこと

背や肩にリュックサック、救急袋
頭には防空頭巾、戦闘帽など
足に破れ靴、草履、足袋はだしの人もいる
東京大空襲で追われてきた流民たち

この雪国に疎開できていた少年の目が
父、母、兄弟たちの面影をさがす
人々はどこまで追われていくのだろう
前方に安住の地はあるか

サイパンでは女たちが断崖から海へ身を投げた
沖縄ではひめゆり学徒隊が自決した
雪国の少年たちは竹槍をそぎ死闘の訓練
ヒロシマ・ナガサキで新型爆弾が町を消した

太陽がじりじり照りつける昼下がり
耐えがたきを耐えとラジオからの神の声
戦争に負けたげえなと農夫のつぶやき
いまから六十年前、太陽が黒くかげった

東京は焼け野原に道だけげ白く残った
少年はおなかをすかし町をさまよう
拾った鉄屑はわずかなお金になった
それでも少年の空腹は満たされない

職と食を求めさしのべる手に
銃を握らせることをするな
家族の安息を祈るひとびとに
クラスター爆弾、劣化ウラン弾を投ずるのはよせ

国境をこえ侵攻する米軍、追随する日の丸自衛隊
ファルージャはゲルニカになった
それでも銀座、新宿、渋谷はきょうも賑わい
うかうかと日本人は虐殺に加担している
(『市民の意見30の会・東京ニュース』№88/05・2・1)
[PR]
# by tatazumi | 2011-05-11 13:43 | 井之川巨
                                      詩集未掲載
●やくざの用心棒を許さない  井之川巨
おれは労働者だ
朝から夜まで働く
体を張って働く

おれは労働者だ
働けなければ報酬は貰えない口先で大儲けなんてことはない

おれは労働者だ
おれたちがこの街の道路を作った
ビルや港を作ったのもおれたちだ

おれたちは労働者だ
北海道から沖縄から仲間が集まる
韓国からフィリッピンから仲間がやってくる

俺たちは労働者だ
夜から朝まで働く
黒い札ビラで遊んだりはしない

自由を求めておれたちはきた
労働と安らぎを求めて
おれたちはこの街へやってきた

だけどこの街にあったものは
やくざの暴力支配
やくざの用心棒をする警察

おれたちは人間だ
労働者という名の人間だ
なのに奴らはおれたちを人間とみない

労働者はやくざにピンハネされる
やくざは警察官に貢物
だから警察官はやくざに頭が上がらない

警官は弱者を助けない
警官は貧乏人の味方にならない
警官は労働者をパクる

労働者をバカにしてはいけない
ピンハネされた分は必ず取り戻す
リンチを加えた者には必ず返礼する

おれたちが我慢ならないのは
資本と手配師の裏取り引きだ
かれらの用心棒を買ってでる警察だ

さあ、石を投げろ
さあ、瓶を燃やせ
イカす自動車をバリケードにしろ

さあ、暴力団からいくら貰った
さあ、暴力団を何人逃がした
土下座したって間に合わないぞ
(寄場詩人11号掲載)
[PR]
# by tatazumi | 2011-03-13 12:31 | 井之川巨
                                      詩集未掲載
●暴動こそ正義だ  井之
川巨
冬の時代をこえ暴動が火をふいた
暴動が街を駆けぬけた
暴動がマンモス交番を直撃した
おい見ろ
ヤマの仲間は健在だ
暴動は政治警察にたいするおれたちの拒絶の回答だ
暴動はアブレ地獄へのおれたちの怒りの表現だ
暴動はストなし労働戦線への寄り場からの鋭い批判だ
ひきょう者は逃げろ
おれたちは夜明けに向かって出発する
闘いは楽しく
暴動はおれたちの生きる証し
暴動のさらなる量的拡大をとげろ
暴動の質的向上をはかれ
沖縄コザ暴動の
韓国光州蜂起の
地鳴りし響きあう爆発をつくれ
帝国主義者との闘いにおいては
造反有理
暴動こそ正義だ
(原詩人24号掲載)
[PR]
# by tatazumi | 2011-03-13 12:28 | 井之川巨
                                      詩集未掲載
●おれたちはいま燃えるいのちだ  井之川巨
この冬
大地はまた鳴動したのだ
遠くおれの耳にも
地鳴りは聞こえた
夜が更けても
地鳴りは聞こえた
労働者のうめきが聞こえた
働くに仕事がなく
テーブルの上に湯気のたつ皿がなく
寝るときに暖かい蒲団がなければ
この山谷を
おれたちの街とは呼べても
この大地を
おれたちの国とは呼べない
おれたちが要求を突きつけると
この国は
日の丸の旗をふり
君が代のひび割れたテープを鳴らし
トラックを突っかけてくる
こんな国を
おれたちは労働者の国とは呼べない
やっらがまくビラは
労働者の街、山谷の胸元につきつけるドスだ
やつらの殺人予告ビラに
街は青ざめる
ヤクザ映画そのままに
労働者をおどし
労働者をピンハネし
労働者をリンチにかける西戸組皇誠会
山谷はおれたち労働者の街だ
この街から
西戸組をたたき出すのか
おれたち労働者が尻尾をまいて引きさがるのか
アオカンの夜明け
まだ凍死せずにいるというのは
おれたちの赤く
怒りにもえる心臓のせいだろう
山谷はおれたち労働者の街だ
この街に長いロープを巻きつけ
絞め殺そうとする者たちがいる
ロープの一方の端を引っぱるのは天皇の西戸組皇誠会
もう一方を引っぱるのは天皇の警察
山谷はおれたち労働者の街だ
ヤクザとイヌは大通りを歩くな
ヤクザとイヌは堅気の労働者に手を出すな
おれたちの街、山谷は要求する
日々の労働と自由を要求する
おれたちの街、山谷は拒否する
暴力支配と行きだおれを拒否する
おれたちの街、山谷はたたかう
そして、山谷はよみがえる
それは、国家権力とのつばぜりあいの闘いだ
おれたちは脅しにはひるまない
暴力はきらいだが
暴力に立ち塞がれても
退きさがることはしない
おれたちは前進する
前進すれば自から道は拓かれる
山谷は
労働と
生活と
闘いの場だ
それらがひとつになり
生きている証しをつくる
膝を屈することなく
獄につながれていった
十二人の仲間たちとともに
おれたちは
いま
燃えるいにちだ
(原詩人28号特集山谷は燃えている)
詩集未掲載
[PR]
# by tatazumi | 2011-03-13 12:26 | 井之川巨
●風土病(日本・釜ヶ崎)  森先弘
来る日も来る日も重労働
来る日も来る日もアルコール
来る日も来る日もドヤぐらし来る日も来る日もチリホコリ

ある日あんまりしんどうて
休んで空気吸いにゆき
ふと気がついたら40代

それから

毎日何時でも働けず
毎日何時でも呑めんようになって
毎日何時でも病院通い

肝ぞう 胃腸 肺結核
ヘルニヤ セキツイづれ曲がり
首、肩、背中、腰痛
筋肉痛、神経痛

こんなにしんどうて痛いのに
のむなのむなとボロのチョン
先生言うたやないか
釜の風土病やて
なんとかなれへんねやったら
俺のむでェー

生きたら生きるほど働かんならん
どうせわいらは野たれ死に

住所不定
身元引受人なし
インターンの解ぼう材料
無縁仏
ナンマイダー

 彼は健康な間 港湾荷役 道路下水河川工事 ビルディング住宅を建て、資本主義文明建設、開発に骨身をくだきました。病気になってからは、病院のモルモットとなり、死んでからは解ぼうされ、その死体は、生前縁の深かった、天王寺動物園の動物達に肉をやってくれ、と本人がのぞみ、無縁仏となりました。―42才

チリホコリ動物園のエサとなる
(労務者渡世25号、森ひろし
[PR]
# by tatazumi | 2011-03-13 12:16 | 森先弘

日雇史  森洋

●日雇史  森洋
夜の耳澄む虫溜りとも山谷
皆で喰うどんぶり雑煮日雇史
春一番が揉んであぶれの数珠つなぎ
獅子っ鼻ダンプが働いている月夜
吹きとおる六月の木の肺活量
組んで敷く鉄筋の下落葉取る
九月さらの職安手帳尻差しに
昼迄の踏んばり厄日の工事足袋
職安でがんばっている皺敬老日
北風へ体温燃やしては土工
四日混んで職安に髭ざらと撫ず(一月)
洗い晒し穿く地下足袋の初仕事
掘り当てて枝継ぐ下水管二月
誘う輪の焚火向こうの方でも焚火
蕎麦庵に土工の鉢巻解いて菊
春雲の腰鳶工は命綱
(90年発行、岩崎母郷森洋山谷二人集)
[PR]
# by tatazumi | 2011-03-13 12:14 | 森ひろし

福祉の袖  岩崎母郷

●福祉の袖  岩崎母郷
「自由だべさ」と笑う歯白の焚火煤
ぽぽぽぽと死後の屁を聞く秋しぐれ
福祉課員袖の冬蠅はらいけり
寄る軒の枯葉抱きこむ山谷の灯
病む冬の夢になお振るつるっぱし
死にたいと壁に文字あり秋時雨
流浪して母の日母の墓知らず
雑煮祝う膳は厚めに新聞紙
死んだような日向ぼっこに遇う山谷
地下足袋で子の輪にまじる路地花火
役得ひとり現場焚火を育ており
三度目の転(まろ)び雪ふる職安前
べろっと睾丸山谷朝市更衣
ブルドーザーに召し使わるや玉の汗
地下足袋の梅雨の重さを窓に吊る
病む冬の日雇退職金はっぱ
アフリカの子の咳テレビ消えてなお
(90年発行、岩崎母郷森洋山谷二人集)
[PR]
# by tatazumi | 2011-03-13 12:13 | 岩崎母郷

人生の詩  中宮竜善5

寄場日雇・野宿生活 私の出会った詩と詩人51 橘安純

人生の詩           中宮竜善5





●我息吹

枯れ木の中から

一粒の新芽が息を吹き、

生をなし、

押し潰されながらも、

この世の物を我身に焼き付けんとする、

自然の力強さ、広大さに

眼を向けさせてくれた、

この地、釜ヶ崎に根をおろしてゆきたい。

●流秘

冷風にあおられ、寒風に身をちぢめ

眠りつく淋しさを誰にも流秘にして

雑踏の中

晴れやかな輝きを求めて

露雨に素裸をたたき

我身を世間にさらけだす無残さを

誰にも流秘にして

雑街の中へ

澄みやかなネオンを求めて

秘めて 流れ路地へ

●浮浪の旅

人生の浮き沈み、はげしく

幸福という島にたどりつくこと能わず

浮浪人生の旅となる

一人寂しく涙も枯れ、わびしく

幼なき夢 胸に託し 寝返りうち

浮浪人生の夢となる

故郷にかえりたくも みずほしく

叫び声空しく 帰ること出来ず

浮浪人生の唄となる。

●灯が見たものは

寒むざむとした 夕暮に

ネオンが所々に灯りはじめ

人々の足どりも 早やばやと

家路へ 家路へと急ぐ。



夜も更けて 吹きすさぶ風の中

ネオンもポツリ、ポツリ消えはじめ

暖簾がザワザワと人々の雑談耳にし

気にもかけず 一人静かに グラス

片手に

帰りたくも 帰る所もなく

カーライトの灯り 電灯がわりにし

道路高架下で 毛布一枚だ眠る。

他人は 嘲るように我の場を 去り

ゆく。

*暖簾:のれん 嘲る:あざける

●流息 我身

鼻息もあらく 通り過ぎ

一息下がりの瞳で 家路へと去りゆく

一人ぼっちで 人雑な街並みを

さまよい歩く

我身のつらさ 誰も知らず



冷風にあおられて 人生を歩みゆく

我息の流れ 延命の心隠し通し

一人ぼっちで ネオン街をさまよい

歩く

我息の強さ 誰も知らず



世間の雑息に 心情をかくし

生きる仲間の 生命の強さを

我心に与え 生きる勇気を秘め

さまよい歩く

生命の強さ 誰も知らず
[PR]
# by tatazumi | 2011-03-13 11:27 | 中宮竜善

杉原洋二3

寄場日雇・野宿生活 私の出会った詩と詩人52 橘安純

杉原洋二3           





●生きてくれ

仕事に行ける人と行けない人との

ギャップの大きいこの釜ヶ崎

生きてくれ、野たれ死にするな

生きていた以上、生きて生きて

そして死んでくれ、

俺はそう思う、

生きよう、生きろう、生きていなければならない

釜ヶ崎なんてないほうがよい

しかし今の「日本」では、

競争のはげしいものだと分かっていても、

生きて、生きて、生きぬくことに

自分の人生に勝つ

おいでよ釜ヶ崎へ

ドロボーしなければと

思っている アンタ

釜ヶ崎で一日日雇いやりなよ

11500円しかもらえないが

汗流して得る金

そして帰り道ルン・ルンだ

スリルを味わいながら

ドロボー稼業で食べるよりましだよ

だってそうだろう

ビクビクしながらそしてポリ公見たら

かくれたり、逃げたりでは

休まる日はないだろう

日雇いはいいぞ

一日仕事行ってしんどかったら

休めばいいし

金がなければ八時間がまんすれば良い

ドロボーをしようと思っている人

おいでよ釜ヶ崎へ (寄場詩人13)

●ブレイカー

ブレイカーが鳴りひびく

くずれ落ちるガラが

コンクリートの床に

スコップで、一輪車に入れる

汗が出、顔がホコリで白く

タオルでふくが

それでも白い顔が汗とまじる

ホースをたぐる

シューと大きな音を出し

ブレイカーを動かす力がある

ダッ、ダッ、ダッ、ダッ

シュー、シュー、シュー

ブレイカー三十番が二十番が

重さを忘れ、目標にむかって

ダッ、ダッ、ダッ、とはつる

飛びちるガラ (寄場詩人35)

●線路

阪堺線の線路上を歩く

赤さびたレールの歴史が物語る

1961年始めて釜ヶ崎暴動の時

武器となった石がアスファルトの下にうまっている

今池の高架上を歩いていると

小ネコが泣いている

親からはぐれたのか

すてられたのか

線路ぞいの家並に生活が見える

木造でつくられた家のワキの植木に

水をかけている年老いた男が

俺を見る

くちぶえを吹きつつまくらぎを飛ぶように歩く、天下茶屋の街並が見える
[PR]
# by tatazumi | 2011-03-13 11:23 | 杉原洋二

人生の詩 中宮竜善4

寄場日雇・野宿生活 私の出会った詩と詩人50 橘安純

人生の詩           中宮竜善4





●同志世界

うす汚れた私の姿を

誰もが どことなく見て

そして 爪弾きするかのように

声をかけてくれることすらなく

遠ざかり 私の前から離れてゆく。

人は誰も この地上で生まれ育ち

言語はちがっても

同じ人間であることにかわりない。

人間として生活を営む場が

どこで生活あろうとも

人間であることにかわりない

私の心情を分かってほしい

●我身の心

夕日の沈む路地から路地へ

当てもなく廃品物資を

貪るように、集めて廻り

一日の糧として金品に変える時の

空しさを誰が知る。

突風が吹き抜け、寒さに体をふるわせ

ビルの軒先を転々と寝ぐらをさがし

さまよい歩き

人の生活の安眠すら知らず

寒風に身をさらす惨めな己が姿の思いを誰が知る。

*貪る:むさぼる 惨め:みじめ

●日々の如く

世間は 野良 流れ者と

我々を軽蔑し、かつ恐れている

我々も同じ世間に生まれ

生活を営んでいる人間だと知ってほしい



我々は一般社会で嫌われている

三Kという仕事に日々の糧を求め

生活の灯を精一杯かかげた生活を

営んでることを知ってほしい



我々には日々仕事ができるわけではなく

仲間の全てが仕事にありつけるとは限らない。

その日、その日の暮らしで枕する所すらなく

野宿に追いやられ

貧窮の生活にあえいでいる仲間がいることを知ってほしい

 *糧:かて 貧窮:ひんきゅう

●流変街

放浪の心を秘め、

憧れと夢を抱き、

この街へたどりつき

見れば、なぜか人雑でうすく暗く

夢も消え、心満たすことも出来ず

誰からも見離され

一人ぽっちの流変街なり。

雑街の中から新芽が生まれ育ち

若木の街に望み抱き歩み寄れども

身を寄せる所なく 流変街なり。

●路地裏人生

この地にある各路地には

隠れた人生があり

一人、一人の生命を育む

路地裏に人生という流れが生きている

どこの街にもある路地なのに

この地の路地裏には人の心を引き寄せ

命を与えてくれる息吹がある。

流れ歩く一人、一人の心に

ふんわりとした温かい綿雲を与えてくれる路地裏人生

そこには人生の苦しみ、悲しみが漂うなのに なぜか

知らず、知らず心が引き寄せられ

生きる勇気を与えてくれる

この地の路地裏にも

密やかで、確かに人生がある。
[PR]
# by tatazumi | 2011-03-13 11:18 | 中宮竜善

全作品目録

全作品目録
橘安純作品集
●道路舗装工事 他6遍
 道路舗装工事
 こあくとうと おおあくとう
 起りえない事故が、なぜ起るのか?
 ビラはりしていてパクられた
 ひさしぶり
 すてきな時間
 一日
●私の体は片焼きせんべい 他2編
 私の体は片焼きせんべい 
 汗がでる
 日ごと
●雨 他3編
 雨
 雨の仕事
 六月のある日
 あめふり
●冬の朝
●そうやって朝は早くなる 他7編
 そうやって朝は早くなる
 一瞬の朝
 仕事がなくなって
 ねんき
 アンコウ
 カラッケツ
 頭を下げなかった
 きせきはおこらなっかった
●涙はでるさ
●座る その女性の場合(日本全国プランター覆いつくし計画の陰謀)
●ウダウダ
●ギシギシ ガタゴト
●今日の仕事
●自句自解「句集地球にねてる」
●野宿生活春夏秋冬 

川口五郎作品集
●ジョーの獄中詩川口五郎3
 ドヤ
●ジョーの獄中詩川口五郎2
 野たれ死に!
●ジョーの獄中詩川口五郎1
 雨降り

井之川巨作品集
●冬に向かって行け詩集未掲載
●武器はみんな捨てろ
●もしも僕が死んだら
●おれたちは怒っている(マヤコフスキーと言うべきか2)詩集未掲載
●越冬闘争の詩(マヤコフスキーと言うべきか1)詩集未掲載
●ひばり讃江
●友、アジアより来たる
●殺すな ―「内ゲバ」に反対する詩
●日和見主義の方法
●電話
●春浅く左肝ひとつ
●ピーの話
●あるコピーライターの来歴
●おれたちはいま燃えるいのちだ詩集未掲載
●暴動こそ正義だ詩集未掲載
●やくざの用心棒を許さない詩集未掲載
不戦六十年の夜に 

森ひろし作品集
●人間の季節 (寄場のピカイチ詩人 森ひろし3)
●足  (寄場のピカイチ詩人 森ひろし2)
●山谷人生 (寄場のピカイチ詩人 森ひろし1)
●冬のうた
●山谷の冬
●ふるさとのうた
●人間の谷間か

中宮竜善作品集
●人生の詩 中宮竜善5
 我息吹
 流秘
 流浪の旅
 灯が見たものは
 流息我身
●人生の詩 中宮竜善4
 同志世界
 我身の心
 日々の如く
 流変街
●人生の詩 中宮竜善3
 我生命
●人生の詩 中宮竜善2
 路地裏人生
 流息 我身
 煙幕の中で
 流変街
 灯が見たものは
●人生の詩 中宮竜善1
 街角
 心の叫び
 雑踏の息吹

バルサン作品集
●バルサン2
 日雇い‘95
 抑圧時間
●バルサン1
 92初夏仕事への再生
 腹の虫

田仁多憲治作品集
●非国民宣言 田仁多憲治4
 やってられねえパート2
 戦争
 東拘午前2じ
●非国民宣言 田仁多憲治3  
 ある飯場で
 山谷暴動
●非国民宣言 田仁多憲治2
 東拘午前2じ
●非国民宣言 田仁多憲治1
 非国民宣言
 精神病棟

松原 忍作品集
●釜ヶ崎羅漢   松原 忍2
 釜ヶ崎
 ある風景
 戦慄
●釜ヶ崎羅漢   松原 忍1
 釜ヶ崎日記抄

杉原 洋二作品集
●杉原 洋二3
 生きてくれ
 ブレイカー
 線路
●杉原 洋二2
 かけ声
 さびしいんだ!
 三角公園
●杉原 洋二1
 釜ヶ崎
 酒と日雇い

大石 太作品集
●おらホームレス 大石 太2
●おらホームレス 大石 太1

木山早織作品集
●木山早織2
 おっちゃん
 釜ヶ崎のお父さん
●木山早織1
 右手
 夜まわり

□□□□さん作品集
●□□□□さん
 祈り
 今日は祭りだよ!

種田山頭火作品集
●山頭火の野宿

市川 栄一郎作品集
●あの日あの時    市川 栄一郎
[PR]
# by tatazumi | 2011-03-11 11:54 | 全作品目録
●あるコピーライターの来歴  井之川巨

1 前史
ことばは
傷つき倒れていた。
しかもことばは
飢えていた。
さっきまで共にスクラムを組んでいた仲間たちは
どこへ消えてしまったのだろうか。
傷はいたむし
空腹はさらに募るし
深まる夜とともに寒さも厳しくなった。
そのときだ、ことばに手をさしのべる
救いの女神が現れたのは。
彼女はことばをわが家へ連れ帰り
温かいスープとベットと
傷口をおおう白い綿布を与えた。
翌日からことばは
プラカードの文字を
〝ヤンキーゴーホーム〟から
〝冬物大バーゲン〟に書き替え
盛り場の四辻に立つことになった。
新聞紙の下段に登場し
電車のなかにぶら下がることになった。
なぜなら
彼女の名は〝広告〟だったから。
この日から、革命のプロパガンダは
コマーシャルのメッセージに変身した。
ことばは
コピーライターを志願した。
それはことばにとって
世を忍ぶ仮の姿。

2 テスト
「じゃあ、これから
実技による入社テストをおこないます」
長髪がカッコいいアートディレクター氏はいった。
「課題はこのコップ。
コップのキャッチフレーズを考えてください。
持ち時間は一時間
なるべくたくさん書いてください」
よーい、どん。
さっそく鉛筆を走らせるコピーライターの卵たち。
光るコップ。
美しいコップ。
透明なコップ。
手の中のコップ。
冷たいコップ。
クール、クール、クール、コップ
お口の恋人コップ。
初恋の味、コップ。
健康ですが、コップ。
スカッと爽やか、コップ。
なんである、コップである。
(どこかで聞いたことがあるな)
割れないコップ。
安全なコップ。
頑丈なコップ。
テーブルから落としてみてください、コップ。
熱湯を注いでみてください、コップ。
公害のないコップ。
添加剤を使わないコップ。
ボクの友達、コップ。
贈答にはコップ。
貰って嬉しいコップ。
信頼のしるし、コップ。
友情のコップ。
愛のコップ。
コップ、コップ、コップ。
コップばんざい。
広告のテクノクラートになるための
第一の関門

3 初対面
シャンデリヤが
ぴかぴか光っているレストラン。
「これが
こんど入ったコップ君です。
コップ広告賞をとった優秀なコピーライターです」
と、ディレクター氏。
「どうぞよろしく」とコップ君。
「まず一言いっておきます。うちの仕事をやって
広告コンペで賞なんかとろうと思わないで下さい。
賞なんかとれなくていい。
うちの商品が売れさえすればいいんです。
売れるコピーを書いてください」
クライアントのエグゼクチィブ氏に
コップ君は初対面で痛烈なフックをくらった。

4 盗む
コップ君は毎日
大量のことばを生産した。
あしたに色鮮やかなカラーテレビの広告
昼に緑にかこまれた分譲住宅の広告。
夕べに暮らしを豊かにするあなたの銀行の広告
ことばの量産作業は
しばしば夜が白々明けるまでおこなわれた。
それは彼が工場で働いていたときにも
なかった経験だった。
昔の仲間に会うとコップ君はいった。
「ふん、どうせ資本主義の尖兵の仕事さ」
そう自嘲めいていいながらも彼は
糸を吐きだす蚕のように
ことばをつぎつぎ吐きだす快感を味わっていた。
インクの匂いも新しい〝作品〟を
せっせとファイルブックに貯えていった。
「工場でボール盤のハンドルを握っているより
やはりおれには向いているようだな」
彼はいった。
「なんていったって
クリエイティブな仕事だからな」
そうもいった。
しかし
コップの容量には限りがある。
ことばを浪費すれば
ことばの貯蔵庫には在庫がなくなってしまう。

そこで手当たり次第
どこからかことばを盗んでくる。
百科事典から盗む。
ことわざ辞典から盗む。
流行歌や童謡のなかから盗む。
新聞から雑誌から
テレビから映画から盗む。
いい替える。
逆さにする。
ばらばらにする。
くっつける。
(そんなときノリとハサミを使う)
顔だけとりかえる。
衣装を替える。
色を替える。
場所を替える。
年代を替える。
性別を替える。
季節を替える。
商品を替える。
メディアを替える。
朝起きてから寝るまでの時
月曜から日曜日までの日
一月から十二月までの歳時
生まれてから死ぬまでのライフサイクル。
すべての素材を一本の物差しではかり
一本のカッターナイフで切り
一本のペンで書きあげる。
整形され
化粧し直し
ドレスアップされた新しい創造の世界が
原稿用紙のマス目のなかによみがえる。
コピーライターに不可能はない!

5 馬
コップ君は書く。
逃げる馬を追いかける。
馬を水飲み場まで連れていき
なんとか腹いっぱい水を飲ませようとする。
逃げる馬とは消費者のこと。
そして売上げ記録に挑戦する。
広告コンペに挑戦する。
あるときは囁きかけ
あるときは大声はりあげる。
一九六〇年代幕開けの新聞を飾る
颯爽たる姿のキャッチフレーズたち。

アラスカの木は二度太平洋を渡ります、ヤマハピアノ。
「人間」らしくやりたいな、トリスウイスキー。
キモノでごめん遊ばせ、東レ。
パリからトーキョーへ、カルダンがやって来た、高島屋。
〈アンネの日〉ときめました、アンネナプキン。
世界のSONY、一二〇ヶ国に。
国境のないカメラ、キヤノン。
十秒間で美しい写真ができる、ポラロイドカメラ。
堀江君が帰ってきた…おめでとう〈マーメイド号〉、シキボウ。
桂離宮も見ました、キヤノンも買いました。
シャーベットトーン、資生堂口紅。
価値あるアリナミン。
スカッとさわやかコカ・コーラ。
ハンコよりあなたです、三菱サイン預金。
今日から複写革命が始まる、富士ゼロックス。

世界に羽ばたく日本をうたい
商品が奏でるロマンをうたい
広告がひらく地平をうたう。
街をゆくとき
コップ君が着るカルダンスーツの肩は
確かに風を切っていた。

6 愛
コップ君は砂に書く、愛という字を
それを読むのはかもめだけ。コップ君は手紙に書く、愛という字を
それを読むのはあの人だけ。コップ君は広告に書く、愛という字を
それを読むのは百万の人びと。
広告の愛は刈りこまれ化粧された
みごとなタイポグラフィー。
ディレクターのコンセプトの軌道のうえで
デザイナーのテクニックで磨きをかけられ
クライアントの笑顔で公認された愛。
愛はプリントされ電波にのって
日本中の家々のドアをノックする。
トントン、愛しています。
トントン、愛してください。そんごくうの如意棒の先から誕生する
そんごくうA
そんごくうB
そんごくうCのように
複製の愛は
日本中の規格サイズのドアをノックする。
トントン、愛してます。
トントン、愛してください。
それはしかし
コップ君がかつて砂のうえに書いた愛
あの人と二人だけの心に刻んだ愛ではない。

7 空気
朝、目を覚ますと
蒲団のなかで新聞を読む。
読むのは下段から、つまり広告欄を先に読む。
それからニュース見る。
実はニュース欄だって広告とあまり違いはないのだが……。
高級官僚をスポンサーにしたPR記事。
大企業をスポンサーにしたパブリシティ。
コップ君がつくった広告のタイアップ記事も
今朝の新聞の片隅に光っている。
朝食をとりながらテレビを見る。
番組の間はおかずを眺め
CMタイムにはブラウン管を見つめる。
電車に乗ると中吊り広告を見る。
街をゆくときは看板やウインド広告を見る。
タクシーに乗る、車内広告がある。
デパートに飛び込む、POP広告がある。
商品を買う、パッケージも広告だ。
喫茶店にはいる、持ってきたカップも
マッチもレシートの片面もみんな広告だ。
外へ出れば
空には今日もアドバルーン。
広告、
広告、
広告、
……。
ああ、日本列島の空はまさに
酸素と窒素と
排気ガスと
広告でできている!

8 会議
「それでは
これから会議をはじめます。
今日の議題は〝明日の広告王国をめざして〟」
どうしたらもっと広告を見せられるか。
広告に感動させられるか。
商品を買わせることができるか。
企業の思想を普及することができるか。

それには━━とA君。
テレビ番組はすべてスポンサーつきなのに
なんで新聞記事にスポンサーがついていないのか。
これをテレビ並にすることだ。
新聞だけでなく雑誌にのる論文や小説類もまた然り。

それよりも━━とB君。
もっと新しいメディアを開発することだ。
たとえば道路も街もメディアだ。
山や川もメディアだ。
広告とは環境のことである。
富士山にシンボルマークを印刷できないか。
太平洋をコーポレートカラーで染められないか。
青空にだって、白い雲にだって
地球そのものにだって
太陽にだって広告できるはずだ。

もっと身近なところで━━とC君。
人間そのものがメディアだ。一億日本人をすべて
メディアとして買いきることだ。

そのトレードキャラクターには━━とD君。
天皇をスカウトすることだ。
天皇と同じ朝食をどうぞ。
天皇のフォーマル・ウエアをあなたに。
天皇のロールス・ロイスが当たる。
天皇と一緒にハワイへ行こう。
なんてったって天皇は日本一のスーパースターだからな。
プレミアムにだって
イベントにだって使えるぜ。

ぼくが思うに━━とK君。
メディアは脳細胞それ自体だ。
だからこれにX線、ガンマ線、
ベーター線、アルファ線をミックスさせて
直接情報を送り届けることだってできる。
脳波を操作する。
睡眠中にインプットする。
すると彼は目を覚ましたとき
きっと広告商品を食べたいと思うだろう。

コップ君は鼻毛を抜き抜き思った。
広告界にはなんと
ヒトラーやゲッペルスのエピゴーネン達が
多いことだろうか、と。

9 自殺
ある日の朝
こんな新聞の見出しが目にはいった。
━━「のんびり行こうよ」破産。
  「夢がないのに夢売れぬ」と遺書。
  テレビのディレクター自殺。
テレビCM界の鬼才とうたわれた
杉山登志、三十七歳。
場所は東京赤坂のマンション自室。
遺書にはこう書いてあったという
━━リッチでないのに
  リッチな世界などわかりません。
  ハッピーでないのに
  ハッピーな世界などえがけません
  「夢」がないのに
  「夢」をうることなど……とても。
  嘘をついてもばれるのです。
モービル石油の
資生堂の
トヨタ自動車の
イメージビルディングに貢献した
ひとりの男の死。
自分の死までが
秀れたコマーシャルメッセージになっているのが
コップ君には悲しい。

10 罪悪
ある日
新聞の片隅に小さく並んだ活字。
「不動産会社倒産」
しかしその不動産会社の広告は
先月までその新聞に
大声をはりあげてはいなかったか。
しかもそのコピーを書いていたのは
他ならぬコップ君自身ではなかったか。
またある日
新聞に恥かしそうに並んだ活字。
「メーカー欠陥商品を回収」
そのメーカーの広告キャンペーンは
いままさにコップ君の手で
企画書として書かれつつあるのではなかったか。
「実際に使ってみたけど
うちの製品はあまり良くないんだ。
しかしそんなこと書いてもらっちゃ困るよ」
とクライアント氏。

「イメージを売ろう。
欲望を刺激しよう。
消費者のライフスタイルを広告がつくるんだ」
と広告代理店のAE氏。
広告学校で習った
アイドマの法則というやつ。
A attention(アテンション)
I interest (インタレスト)
D desire (ディザイアー)
M memory (メモリー)
A action (アクション)
AE氏の話を頭上に聞きながら
コップ君はスケッチブックにいたずら書きしていた。
A 愛してますなんて
I インチキいいながら
D だまして
M もうけるなんてもう
A あきあきです

11 激突
ことばは
累々と横たわっていた。
ことばは手足をもがれ
目や耳を失い
暁闇のなかに倒れていた。
いつまで待っても
やさしく手をさしのべる女神は現れてくれない。
ことばの隊列は
どこへいってしまったのだ。
遠くで喊声をあげる気配がある。
戦闘をくりひろげる気配がある。
広告のことばと反広告のことばの激突!
味方はどこだ。
敵はどいつだ。
ああ、世界を忍ぶ仮の姿ではなく
ほんとうに復帰すべきおれのことばの原隊は
いったいどこにあるんだ。
    (詩集「死者よ甦れ」より)

※尖兵=せんぺい、喊声=かんせい
[PR]
# by tatazumi | 2011-02-13 22:21 | 井之川巨

ピーの話   井之川巨

●ピーの話   井之川巨
男たちは戦場から帰ると
決まってピーの話をしたものだった
チャンピー
満州ピー
チョウセンピー
いろんなピーの品定めをしたあと
やっぱり日本のピーが一番いいと男たちは言った
ピーを買うのに長い行列をした話
早くしろとせかされながらピーをした話
買ったピーに泣かれて困った話
男たちの話は尽きなかったが
ピーとは何のことなのか
八歳のぼくにはよく分からなかったが
どうやら女の人のことのようで
スケベなことのようで
戦争に行くと必ずあるもののようで
それ以上のことはよく分からなかったが
ピーの話をしていると
男たちはめっぽう楽しそうだった
ピーの話を置き土産にして
ふたたび戦争へ出かけた行った男たちは
やがて一人、二人、三人……
遺骨になって帰ってきた
戦争に負け生き残って帰ってきた男たちは
さっぱりピーの話をしなくなった
戦争から帰って
めっきり無口になった男たちの
子供や孫の代になって
軍服を背広に着替えた男たちのピー買いが
またも盛んになったと思ったら
こんどは行列のしんがりに
コンドーム持参のPKO部隊が
加わってしまったのだ
      (詩集「石油を食いすぎた胃袋」より)
[PR]
# by tatazumi | 2011-02-13 22:20 | 井之川巨
●春浅く左肝ひとつ  井之川巨

「じぶんの性格をひとことで言ってください」
と看護婦は言った
ん? 神経質か? 頑固か?
非社交的か? ネクラか?
「手術を目前にそれが気になったりしますか」
と看護婦は重ねて聞いてくる
手術が気にならぬと言えばウソになる
といってそれを気に病み
夜も寝られぬほど純情というわけではない
すでに三回外科医のメスの下で
辛うじて命を探りあててきたおれだ
神経過敏が極まっていま楽天派に転ずるか


「おはようございます六時になりました
きょうは一月二十二日木曜日です
検温の時間がまいりました
お部屋で静かにお待ちください」
病院の朝は看護婦さんの爽やかなコールで始まる
これでやっと咳や鼾や歯ぎしりや
夜陰に変幻するさまざまな鬼たちともお別れだ


おれが大事にしているヒゲが盗まれた
おれの顔の画竜点睛ともいうべきヒゲが盗まれた
「ヒゲは手術の邪魔です麻酔がうまくかかりません」
とドクターは言う
ヒゲはおれのイメージの不可欠の構成要素だ
群衆の中にいるおれを
友人たちはもう識別できないかも知れぬ
おれの悲しみをよそにかみさんは言った
「ああ さっぱりした!」


「これが左側の腎臓 こちらが右側の腎臓
こんなに黒ずんで見えるでしょこれが腫瘍です」
CTスキャナーの写真を見ながら
ドクターは右腎摘出手術について説明した
「腎臓を取ってしまってあとは大丈夫なのですか」
「二つある臓器を一つ取っても機能障害はありません」
ドクターは二つある腕時計の一つが故障しただけとでもいった口調である。
ぼくは左に傾いたからだをがったんごっとん
街の中を運んでいく自分の姿を目の裏に浮かべた


この肉が三枚肉 適度に脂がのってうまいよ
これが腎臓 いい色してるね
その下に出てきたのが腎臓 ちょっと色が悪いな
なんだ腫瘍ができているじゃないか
そんなもんは食えん
腎臓を切り取ったら傷口を縫い合わせて
また浮世とやらへ返してやれ


天井の壁紙に描かれた黒い流れのような模様
ベットに仰向けになり見ていると
不定形の黒いシミたちが色彩の小鳥になり花々になって宙を舞っている
地獄をさまよう病人に与えてくれる
天からのブレゼント


ベットに上半身を起こしてもらうと
目に見えるどちらが上なのか下なのか
分からなくなってしまう
まるで宇宙船の中にいきなり放り込まれたようだ


頭から手が生えていく
耳から手が生えていく
目から手が生えていく
口から手が生えていく
手から手が生えていく
手から足が生えていく
足が逃げたぞ ヤツを捕らえろ


そのお人形は青い顔をしています
長いシルクのドレスも青
頭にかぶった羽根帽子も青
手袋も靴も日傘も
身につけたキラキラ光る宝石もみんな青
こんにちはと言うと
こんにちはと答えます
お名前はと聞くと
サヤカちゃんですと言います
でも目はつむったままです
このお人魚は病んでいます

10
この一番安い病室は黄色い一枚のカーテンで
六つのベットが仕切られている
穴のあいた胃袋くさった肝臓
使い物にならない心臓などをかかえた男たちは
体にしみついた煙草のにおい
汗と精液のにおいをぷんぷん漂わせ
呻き声をあげて横たわっている
男たちはボロボロのわが身に向かって畜生!
と叫ぶがここまで自分をボロボロにした社会に
みんな一日も早く帰りたがっている

11
「お小水は何回でしたが?」
体温 脈拍 血圧検査といっしょに
毎朝看護婦さんから尋ねられる
「昼四回 夜二回です」
小便一回といっても決してバカにしてはいけない
泌尿器科の患者にとって
小便は唯一最大の検査データなのだ
「量もだんだん増えてきましたね」
看護婦さんは患者を力づけるように言う
放出され小便はすべて透明なガラス容器に蓄えられる
その分量 色調 透明度は一目瞭然だ
右腎摘出手術をうけたぼくの小便は
誰のものより少なく色も冴えなかった
それが淡い亀甲色に輝きいまなみなみと湛えられている
左腎一つだけで二つ分よく頑張っているなあ
と褒めてあげたい気分

12
病室の窓から東京の空が一望できる
晴れた冬の空にひときわ高く背伸びしながら
身を寄せ合っているのが新宿超高層ビル群だ
今日もみんなあの辺りの地上を忙しげに
行き交っているんだろうなあ
夜になると東京は光にあふれ巨大な星雲になる
だけど東京の夜空にほんとうの星は瞬かない

13
トンガ王国からやってきたサントス君
お国にいるとき日本のチャンバラ映画を見たので
日本にはまだサムライがいるものとばかり思っていたと言う
テレビでサントス君を見た晩
サムライに襲われ体中を斬られる夢をみた
傷の痛みに目がさめた
サントス君
日本にはいま刀をさしたサムライこそいなくなったが
背広にネクタイ姿のサムライが
いまも合法的によわい労働者や農民を
襲いつづけているんだよ

14
クニコ きみはやさしい娘だね
ぼくが脇腹を大きく切り裂かれ
痛みの国の山道をあえぎあえぎ登りつめようとしていた夜
きみはぼくを思って朝まで眠れなかったそうだね
それで分かった
道理であの夜の痛みの苦渋の七曲がりは
さほど辛いものではなかった
きみのやさしい思いが魔王の怒りを鎮めて
きっとぼくの命を守ってくれたのだ
ありがとう クニコ

15
「ぼくのこと覚えていますか」
制服制帽すがたの警備員のおじさんが
ベットの足元に立って言う
どうも見舞い客ではないらしい
といって仕事柄きたのでもないらしい
じっと見てると時間がスリップしていきそうな顔だ
胸にネームプレートが刻まれている
「白砂青松だ 全然変わらないじゃないか」
白砂清
ぼくら文学サークルのメンバーは
この美しい海辺の風景を姓にもつ男をみんな好きだった
「まだ書いてるの?」
「いま短歌をやっているんだ」
三十年あまりの時間は一瞬のうちに滑り落ち
おじさんの顔の中に少年の顔をよみがえらせた
友が去った後かみさんはほっとした顔で呟いた
「キミを逮捕にきたのかと思ったわ」

16
睾丸の捻転をおこして入院した青年
新橋の一流商社につとめる新人類サラリーマン氏
「ヒマだなあ」と言って
九時の消灯時間が過ぎても枕元の電灯を消さない
新聞をペラペラ
カセットテープをカシャカシャ
廊下をドタンドタン
お茶をズルズルーッ煎餅をカリカリッ
茶碗をガシャーン(あっやったあ)
引き出しをガタンゴトン雑誌をバリバリッ
一発ブーッ(くさいくさい)
静かになったのは朝の四時
自分を分析して「若いんで力が溢れているんですよ」
二泊三日の修学旅行のような体験入院をおえて
青年はガニマタ姿で出ていった
寝不足の隣人たちには一言の挨拶ものこさず

17
なあーに? テレビやラジオを聞くときは
イヤホーンで聞いてくれって?
なに言っているんだよ おじさん
入院してまで静かな別荘気分を味わいたいんなら
こんな大部屋じゃなくて特別室に入んなよ
いい年をしてから婦長にいいつけたりして
スパイみたいなマネはよしな
じゃあ おれたちも耳栓をする代わりに
おじさんも鼾止めの鼻栓と
告げ口止めの口栓をかってみるかい
おじさんは自分だけ被害者のつもりらしいが
被害者が同時に加害者だってことはよくあることさ
おじさんの自分勝手なおしゃべりやグチや泣き言が
どんなに同室の患者たちの気を重くしているか
まったく気づかないのか
病室はお通夜の席ではないんだ
気分が重く沈んだら 傷口がまた泣き出したら
ときにはドクターの処方箋より
ラッパや太鼓の音のほうが効き目があるのさ
おじさんも一人拗ねていないで
大空を飛んでくるミューズの囁きにちょっと
耳を傾けてみろよ

18
病人にとって夜は魔の時間
夜が更けると痛みの国からやってきた老婆が
時計の振り子で傷口の扉をたたきます
「はやくこの扉を開けるのじゃ」
「どうかそんなに扉を叩かないでください
病人がとても痛がっています」
「だからこの扉を開けろというのじゃ
わしがすぐ楽にしてあげる」
「どうか見逃してください
扉を開けたら病人は死んでしまいます」
「開けないと扉をぶちこわすぞ」
「いいえ開けるわけにはまいりません」
痛みの国からやってきた老婆は
なおも扉を叩きつづける
病院は歯を食いしばって扉をとざす
病人の傷口の扉をはさんで
押し問答は朝までつづくのです

19
「夜になると傷口が痛みだすのでツライ
それに熱は下がらないし食欲はないしユーウツだなあ」
と弱気の病人
「もう少しの辛抱です
奥さんのやさしい愛がある限りかならず良くなります
病気にはどんな薬よりも奥さんの
ビタミン愛がよく効くのです」
アラレちゃんそっくりの看護婦さんが
看護づかれのかみさんにウインクしながら
いろいろ励ましてくれる

20
手術の前日「私が担当になりました」
とベットの枕元に立ったのは少女のようなKさん
看護学校からやってきた実習生
おなかの産毛を剃って皮膚を傷つけてしまったり
点滴のチューブに血液を逆流させてしまったり
腹帯をきつく締めすぎたり
ちょっとした失敗はあったけれど
汗くさい背中を拭いてくれたり
初めてのトイレに歩行器を先導してくれたり
わがままな病人の面倒をよく見てくれましたね
抜糸の後ようやく入ったお風呂で
青いユニフォームをびしょ濡れにしながら
頭を洗ってくれたことが忘れられません
でもあの晩また熱が上がってしまって
ぼくはかみさんに叱られてしまいました
ようやく熱も下がり痛みも遠ざかって退院という日
青いユニフォーム姿がひとつも見えなかったのが寂しかった

21
わが家と病院の距離は片道一時間半
ここを大きな紙袋を下げてかみさんは毎日通ってくる
袋の中には洗濯ずみの下着類 手紙 新聞 雑誌
タッパウエアに詰められたおかず 果物 缶ジュースの類
病室に着くとさっそく食器類を洗い花瓶の花の水きり
わが家のニュースの報告
そしてベットの側に腰をおろすと
「回診ですと」
と看護婦の声に廊下へ追い出されてしまう
帰り道もやっぱり朝と同じ大きさの紙袋を
「どっこらしょ!」
      (詩集「石油を食いすぎた胃袋」より)
[PR]
# by tatazumi | 2011-02-13 22:19 | 井之川巨
●人間の谷間から  森ひろし
  一
こうして生きようとする
街の底に
皿のかけら
顔のかけら
ことばのかけら
散らばっていて
それのひとつを拾っても
ぬくもって
新しくて
  二
いつになっても
雨傘を買っとかないので
ぬれてしまう
おれと
道づれと
家が歩く
暮しの習慣
自動車は無関心に
走りぬけ
街のはじっこに
ひっつく空
  三
星の欠けていく夜
じゃらじゃらじゃらじゃら
はげしい雨だれ
パチンコ機械がはえた
密林のなかで
狂おしいけものらは
むさぼる影をのばし
ひからびた叫び声
人工つるのさがった
遊びの底で
わなにかかったおれ
パチンコ玉にすべった
  四
風がふくらますものは
風の足なので
それは街角にも
都電停留所にも
木の芽にも
おれにも
すばやく当って
ざらつくその影響力を
さえぎりようはなく
ほこりの渦巻
めくれる物
  五
いなくなった友だちを
思いだす季節
ドヤの窓が明るむころ
万年蒲団のなかには
いつもなまった彼の
話がこぼれていた
労働の体温がこもっていた
国に手紙をださないという
理由もねばついて
精液の匂いがし
朝飯代を借りたりした
東京の人を
悪口で突ついた
なんとかやっていく自信もあって
住民意識はほこりっぽく
それから飯場へいき
決心とは現状を抜けること
なつかしく時間がしたたる
友だちはほんとうに飛んだか
もうもどってこないか
街が廻るころ
[PR]
# by tatazumi | 2011-01-27 14:29 | 森ひろし
●ふるさとのうた  森ひろし
街は石
人は他人
山谷はおれをかむ
なつかしいのは青空
ふるさとを呼ぶおれ
おれは若い雑草が好きだった
歌をうたったつけ

山谷の空 灰色
よどんだ雲 人のこころ
ふるさとの家が恋しい
おれが捨てた家がみたい
もう一度陽のあたる窓にすわろう
こんにちわを言いたい

山谷の冬 冷たいくらし
一人ぼっちの道 おれはやっぱり
はるかな愛情をもっていた
ふるさとの海にひたりたい
夏じゅう泳いでいたい
ふるさと遠くかえっていきたい

山谷の冬 灰色
死んでいくおれ
なつかしいのはふるさと
[PR]
# by tatazumi | 2011-01-27 14:28 | 森ひろし

山谷の冬   森ひろし

●山谷の冬   森ひろし
仕事をひろって
飯つぶひろって
一円玉ひろって
ともだちひろって
山谷の冬
  ○
街角で
北風と
空きっ腹と
飯場の相棒と
百円玉に
めぐりあって
うれしい
  ○
冬がきたが
おまえも
おれも
街路樹も
おけら
[PR]
# by tatazumi | 2011-01-27 14:27 | 森ひろし

冬のうた   森ひろし

●冬のうた   森ひろし
きょうもアブレだ
仕事が増えてくるように
神さまにいったってしょうがない
やがて仕事はやってくる
春といっしょにあらわれる
ほれ去年もバンでやってきた
文句いっているうちにきた

きょうはオケラだ
おれはオケラの虫の巣
そうして冬がつらくなる
はだかのおれに冗談いうな
腹がへってて笑えない
山谷じゃ不平が一ぱい十円
オケラ野郎に気をつけろ

アオカンしたら夜はさむい
男一匹ドヤ銭なくて
星をみつめて寝そべっていた
心臓ががちがち鳴ってた
山谷の冬をおっぱらえ
山谷の冬をおっぱらえ
[PR]
# by tatazumi | 2011-01-27 14:26 | 森ひろし

森ひろし 目録

森ひろし作品集
 人間の季節
 足    
 山谷人生 
 冬のうた
 山谷の冬
 ふるさとのうた
 人間の谷間から
[PR]
# by tatazumi | 2011-01-27 14:24 | 森ひろし
寄場日雇・野宿生活 私の出会った詩と詩人49

非国民宣言 田仁多憲治4

●やってられねえパート2
昨日川崎の現金の鳶がB2まで落ちて死んだ
俺が人が落ちたらどうすると
鹿島の「カントク」へガタくった所からだ
その現場に三日行っていた
俺はその現場から
「カントク」にガタくったという事で二日ほされ仕事への「情熱」を失い
岡田組の飯場でくすぼった
二日目に川崎の現金が
俺が「してき」した開口部から
落ちて死んだと岡田組の土工から聞かされて
ものすごく頭にきた
その「カントク」に頭にきた
開口部の手すりつけなんて
俺だったら三十分以内に作って見せるそれを工程が遅れているからと言って
仲間を見すてて殺した
鹿島の「カントク」に
殺意を感じる
いくら工程が遅れているからって
仲間の命さえ平気で殺す
資本の犬らに殺意感じる
こんな仕事
やってられない
こんな仕事
やってられない
こんな仕事……
●戦争
戦争は愛を打ちくだく
戦争は人間を打ちくだく
戦争はありとあらゆるものを
うちくだく
戦争はイヤだ
打ちくだいた愛・人間を
返せ
戦争は俺のオフクロを殺した
やさしかったオフクロ
ラーメンを二人で食った
あの頃
信じられるのは自分自身と
オフクロだけだった
戦争はあらゆるものを
打ちくだく
俺は戦争はイヤだ
人間性を失った
戦争という
バケモノよ
地球上から去れ


●東拘午前2じ
東拘午前2じ
看守に見つからないように
俺は 牙をとぐ


東拘午前2じ
よくも人をぶじょくしたな


東拘午前2じ
よくも人を「バカ」にしたな
だから俺は牙をとぐ


東拘午前2じ
東拘ちょうど午前2じ
草木も眠る午前2じだった
[PR]
# by tatazumi | 2011-01-25 11:39 | 田仁多憲治

井之川巨 目録

井之川巨 作品集
冬に向かって行け
武器はみんな捨てろ
もしも僕が死んだら
おれたちは怒っている
越冬闘争の詩
ひばり讃江
友、アジアより来たる
殺すな ―「内ゲバ」に反対する詩
日和見主義の方法
電話
春浅く左肝ひとつ
ピーの話
あるコピーライターの来歴
[PR]
# by tatazumi | 2011-01-25 11:29 | 井之川巨

ひばり讃江  井之川巨

●ひばり讃江  井之川巨

きみはこましゃくれた少女だった
舞台いっぱいに踊りながら歌う
ブギの女王をまねてブギウギ、ブギウギ
きみは本物よりも上手に歌うので
観客は大喜び
でも喜ばない大人たちもいた

その頃ぼくは昼間工場ではたらき
夜は夜間高校で居眠りばかり
貧乏から這い上がって
あの子もよく頑張っているなあ
ぼくらは心が高揚したとき
インターナショナルを歌い
心がくぐもったとき
ひばりの「悲しき口笛」を口ずさんだ
右のポッケにゃ夢がある
左のポッケにゃ火焔ビン

演歌の女王となってもきみは
魚屋の娘のくせにといわれ
ゲテモノとののしられ
ヤクザとの関係を暴きたてられ
警察が指令をだすと
NHKはきみの手からマイクを奪った
全国の公民館が入口を閉ざした
マスコミはさらにそれを煽った
石を投げる奴、ツバを吐きかける奴
座っていた座ぶとんを投げる奴

ベットに倒れたきみは
何度も何度もよみがえった、不死鳥のように
たとえ女王といわれても
きみは悲しみの酒をくみ
いつだって負けた者とともにいる
そして人の一生の何倍も歌って踊って
何倍も妬まれたり憎まれたり
それで疲れてしまったのだろう
戦後日本を激しく闘い抜いた戦友
美空ひばりは死んだ
祭壇の前には七万人の焼香の列とともに
この国の皇族とヤクザの親分と
部落解放同盟のリーダーの花輪が
等しく並んだ
(詩集「石油を食いすぎた胃袋」より)
[PR]
# by tatazumi | 2011-01-25 11:27 | 井之川巨
●友、アジアより来たる  井之川巨

人がくる 人がくる
海の向こうから人がくる
貧しい国から飽食の国へ人がくる
奪われた国から 奪った国へ
奪われたものをすこしでも取り戻そうと
人がくる 人がくる
日本語を話せない人がくる
仕事を持たない人がくる
「外国人お断り」のアパート建ち並ぶ国へ
人がくる 人がくる
かつて法を破って
鉄砲かついで押し入ったこの国へ
いま法を破って
アジアの国々から裸一貫の人がくる
軍隊に代わって商社や工場
合法的に押し出してくる国へ
自動車、電気製品といっしょに
公害や売春ツアー、送りだしてくる国へ
黒潮にのり、稲が渡ってきた道を
文字を伝え、仏教を運んできたルートを
人がくる、人がくる
どんぶらどんぶら船こいで
着のみ着のまま
難民がくる出稼ぎがくる留学生がくる
借金とりにくる
戦争責任という大きな負債を
いつまでたっても支払おうとしない国へ
人よ、来い
もっと、来い
難民問題とはじつは
あなたがたの問題ではなく
あなたがたを差別し選別し排除しようとする
この国の問題なのですよ
金満ニッポンの我利我利病をなおせるのは
あなたたちだけ
単一民族国家の濃縮した血を薄められるのは
あなたたちしかいません
それこそ国際化というものんおですよ
人よ、来い
人が機械になった国へ
人がお金になった国へ
人がアニマルになった国へ
ナチョラルなこころを持って
もっと、来い
人よ、来い
(詩集「石油を食いすぎた胃袋」より)
[PR]
# by tatazumi | 2011-01-25 11:26 | 井之川巨
●殺すな 「内ゲバ」に反対する詩  井之川巨

もう人を殺すな
言葉が違うからといって
人を殺すな

裏切ったからと
人を殺すな
君もまた人道を裏切る者なのだから

幻想の革命のために
まるで物質を見るような狐目をして
やすやすと人を殺すな

彼を殺すな
病んだ母を見舞いに戻ろうとする
彼を殺すな

天皇制反対の檄文を
ポストに投函しに行こうとする
彼を殺すな

頭が良く正義感にあふれ
テロを許容し、労働を知らない
彼を殺すな

人を殺すということは
大いなる自然に逆らうことだ
言葉が通いあえば暴力は不要

命は生み育むべし
命は燃やし全うすべし
命は能うかぎり延ばすべし

いずれ「内ゲバ」の、同志殺しの
罪は暴かれねばんらぬ
その日まで君自身を殺すな
(詩集「石油を食いすぎた胃袋」より)
[PR]
# by tatazumi | 2011-01-25 11:25 | 井之川巨
●日和見主義の方法   井之川巨

「じゃーねー」
「バイバイ」
「まだいるのかよー」
「お前は?」
「いるよ。なぜ日和らないの?」
「お前は?」
「そっちが日和るのを待ってんじゃないか」
「俺もだ。先に日和れよ」
「そっちが先に日和れよ」
「いやだよ。お前、日和れ」「いやだ。お前、日和れ」
「分かった。いい方法がある。
三つ数えたらいっしょに日和ればいいんだ。
いいか、一、二、三、バイバイ」
「バイバイ」
「まだいるのかよ!」
「なぜ日和らなかったんだよ?」
「お前こそ」
「いいから、もう一度やろう。
今度こそマジだからな。
一、二、三と。じゃーねー」
「じゃーなー」
「おーい」
「おーい」
「まだいるのかよ!」
「うん」
(詩集「石油を食いすぎた胃袋」より)
[PR]
# by tatazumi | 2011-01-25 11:22 | 井之川巨

電話  井之川巨

●電話  井之川巨

「ニッポン国民なら
支払う義務があります」
と受話器の向こうで女の声がこわばった
「義務を果たさなかったら?」
「それはできません」
「できるもできないも
払うお金がないんですよ」
女は黙った
「だったら
監獄にぶちこみますか?」
「そこまではしません」
女は寛大な口調で国家を代弁した
「いちど窓口へきてください
だけど
支払い義務がなくなることは
金輪際ありませんよ」
ーーこんな日本に
好きで生まれたわけじゃない
気がついてみたら
そこが日本だった
誰がはじめたのか
そこで戦争をやっていた
家が焼け
親からひき裂かれ
おれたちはいつも腹をへらしていた
ーーこんな日本に
好きで生まれたわけじゃない「いいえ
ぼくは払わないつもりです」といったとき
受話器はぷつんと切れていた
ちぇっ 国家め!
(詩集「石油を食いすぎた胃袋」より)
[PR]
# by tatazumi | 2011-01-25 11:20 | 井之川巨

                                      詩集未掲載
●冬に向かって行け        井之川巨
冬は
ドブ川を凍らせ
水たまりを凍らせやってくる
冬は
おれたちの鼻水を凍らせ
冬は
北風のむちで
おれたちの頬っぺたをたたきながらやってくる
冬は
ものをいおうとするおれたちの唇を
ぎしぎし凍らせようとやってくる
しかしおれたちは
凍った唇を歯でかみ破ってでも
語りかけるだろう
おお
冬こそおれたちの宿敵
戦前、全協をつぶし
戦後、産別会議をパージし
いままた
右側から吹きすさぶ労線統一の雪あらし
冬は
いつだって鼻先で笑いながら
おれたちの仲間から仕事を奪っていった
湯気のたつ食べものや
温かい寝床を奪っていった
ときにはその生命さえ奪い去った
しかし
この地で死んだ仲間たちは
遠くへ行ってしまったのではない
夕映えの光のなかに
泣きわめく子供のなかに
もえさかる焚火のなかに
投げられた石つぶてのなかに
いまも死んだ仲間たちは生きている
生きて共にたたかっている
おお冬よ
試練の季節よ
おまえはおれたちにとって
またとない好敵手だ
きょうも
冬の手先たちはねらっている
望遠レンズを銃口のようのに構えなが
車のなかから
建物のなかから
春の使者たちをねらい撃ちしている
だが冬はほんとうに
おれたち労働者の熱くもえる心を
冷凍魚のように凍らせることができるか
[PR]
# by tatazumi | 2011-01-22 19:46 | 井之川巨
●武器はみんな捨てろ
井之川巨

むかしおれは軍国少年だった
敵をわら人形にみたてて
竹槍でつきさす訓練をした
だけど敵は原爆をおとした

愛するにあたいする国なんて
どこにもありゃしない
愛する人、愛する山や河があるだけ
それを踏みにじり肥大していく帝国

きみの心のなかから
愛国心という怪物をたたきだせ
この怪物がながらえるかぎリ
地球に平和はやってこない

平和のために街をやく戦争
正義のために大量殺戮をくりかえす戦争
石油のために人間の血をながす戦争
だまされてはいけない

戦争はまず障害者をころす
そしてつぎに
戦争はたくさんの障害者をつくる
障害者こそ平和の砦だ

人間はやがてみんな死ぬんだ
それなのに武器で殺すことはないじやないか
三歳のこどもや命をやどす女たち
八十歳をすぎた老人までも

街が炎上するきまを
クリスマスツリーのように美しかったという
そのむじやきな嘆声は
死者たちのかなしみを三度辱める

ぼうや、よくみてごらん
あの夜空をいろどる無数の光は
花火でもテレビゲームでもありません
爆弾でとびちる人びとの命のしぶき

帝国は朝鮮でベトナムで
グレナダでパナマでバレステナでイラクで
何羽のハトところせば気がすむんだ
武器はみんな捨てろ
[PR]
# by tatazumi | 2011-01-22 16:39 | 井之川巨
●もしもぼぐが死んだら      井之川巨

もしもぼくが死んだら
お葬式は出さないでいい
お坊さんも招かないほうがいい
ごく親しい人だけに集まってもらいたい

もしもぼくが死んだら
屍の上に小さい赤い布をかぶせてほしい
ぼくのついに達成できなかった革命のために
ぼくの偽りのない心のために

もしもぼくが死んだら
戒名なんぞ付けないでほしい
親父の付けた名前のままがいい
威張ったようなこの俗名がいい

もしもぼくが死んだら
友達にうまい酒をふるまってくれ
ぼくが親しんだ泡盛なんかがいい
飲んで歌でも出ればなおいい

もしもぼくが死んだら
集まった誰かに詩を読んでもらってくれ
楽しい詩 皮肉たっぷりの詩がふさわしい
ぼくの詩も誰かに読んでもらいたい

もしもぼくが死んだら
ぼくが謝っていたと伝えてくれ
仲違いしたままのだれかれに
貸借を精算できなかっただれかれに

もしもぼくが死んだら
骨灰は海に散布してもらいたい
沖縄のサンゴ礁の沖合がいい
エメラルドグリーンのあの海へ
     
もしもぼくが死んだら
きみは自由に羽縛くべきだ
ぼくというやっかいな鎖を解き放ち
きみ自身の旅をゆっくり続けてほしい

人はいつか必ず死ぬ
うたい尽くせなかった詩は多い しかし
未完の詩はだれかがうたい継いでくれるだろう
若く貧しく名もないだれかが
[PR]
# by tatazumi | 2011-01-22 16:38 | 井之川巨
●道路舗装工事
好き好んで来たわけではない
かつてに番頭が割振りしたのだ
やつたことのない仕事だし
朝から気がめいった
全面舗装でないのでフイッシャーは使えない
ダンプが下ろしたアスファルトを
スコップとトンボでならしていく
表に立っているだけで汗だくなのに
アスファルトの熱気のガスを吸いながら
スコップでアスファルトを放り投げる
私は地下足袋なので始めのうちは入らないようにしていたが
力が入らないのでアスファルトの上にのって作業する
地下足袋がアスファルトをかぶる
火傷しそうだ
がまんしながら作業する
指を動かし地下足袋の底を地面でこするが
こびりついた熱いアスファルトはとれない
汗ダクダク水をガブガブ飲む
熱気に当てられて直ぐに力つきて
作業は続けられない
長い一息を入れながら作業する
地下足袋はアスファルトがこびりついて
使い物に成らなくなった
もっとも使い古して張りつけがはがれていて
いつ捨てようかと思っていたので
ちょうど良かった
ズボンに付いた乳剤は落ちそうもない
今日は体力を使いはたした
私の10年20年先輩が平気な顔して
私以上に仕事をしていた
風呂に入ると足の親指のつけねが水ぶくれしていた
          (寄場詩人13 安田健二)


●こあくとうと おおあくとう
ももたろうきぶんの おおあくとう
たからじまにいる こあくとうを
あくとうの かざかみにもおけぬと
おやぶんたちに かいじょうまわし
ひとをあつめて おどしをかける

こあくとうは このしまは
もともとおれのしまだと いいはり
おおあくとうは たからもほしいけれど
こあくとうが おおきなかおするのが きにくわなくて
このきかいに つぶしてしまえと おもっている

たからは おやぶんどうしで わけあっても
こぶんには まわってこない
おやぶんは けんをふりかざし
ちからこそ せいぎだと さけんでいる

おやぶんは さけぶだけで
いつもしぬのは こぶんだけ

あくとうに いいもわるいもあるものか
でいりに せいぎもふせいぎもあるもんか
          (寄場詩人17)


●起りえない事故が、なぜ起るのか?
学者や役人は語った
考えられない、予想もしない、起りえない事故だと

起りえない事故が起るという、この矛盾を
御用学者や警察は個人の責任に転嫁しょうとする

現場では起りうる事故が無数にある
ハッとしながら労働者はふんばっている
安全第一だけを考えていたら能率が上がらない
現場の労働者は俺だけはだいじょうぶだと危険かくごで仕事している

土木建設業界じゃ重層下請するうちに安全対策はスローガンだけになってしまう
安全第一と言いつつも、金も人も時間も出さないから
結局現場の労働者のふんばりに安全はまかされる

行政も事故さえ起こさなければ業者となあなあで告知してから査察する、
その時だけは安全第一
役人は大学出てたって現場実務は知らないから、業者にたよらなければ何もできない

入札談合はなぜなくならないのか?
重層下請はなぜなくならないのか?
行政はどうして業者に指導力をはっきできないのか?
これを解決しなければ、事故はいつでも起こる

俺が言いたいのは事故は個人の責任で起こったのではないと言うことだ
もうけ第一で安全ををおろそかにする土木建設業者の責任である
それを許している行政の責任である
          (寄場詩人19)




●ビラはりしていてパクられた
暗黒の闇の中から人間がとびだした
私はすぐ反対方向にかけだした

はしった はしった ガードをくぐり路地をぬけ・・・
はしった はしった ガードをくぐり路地をぬけ・・・と思ったが

10メートルほど行ったガードの下で私はこけた
おっかけてきた人間が肩をつかんだのだ

その人間は私に馬乗りになり、わめいた
「ゆるさへんで ゆるさへんで」
私はしまったと思った 観念した
小柄なこの人間から逃げられそうな気もしたが
ケガをしたくないので じっとこけたまま 静かにしていた

「なんで逃げたんだ 許さへんで 許さへんで」
あいかわらず一人で騒いでいる
他の人間はやってこない
ここで私は思った
これは逃亡をさそっているんだ逃げたらボカスカなぐられる

「10時20分(午後)現行犯で逮捕する」
「抵抗するな ゆっくり立ち上がれ」
と馬乗りの人間は言った

私は無言のまま その人間に微笑をかえした
          (寄場詩人24)


●ひさしぶり
ひさしぶり
こんな広い部屋に一人で
ワンルーム 便所もついてカーペットひいて

ひさしぶり
仕事のことも考えず
ゆったりと 大の字で寝る

ひさしぶり
空調もついているし
そのうえ 一晩中電燈もついて
          (寄場詩人24)


●すてきな時間
こんな空間に閉じ込められて
てもちぶさたで
正座して座禅のまねごとをする
目をつむっていると
うつらうつらしてくるので
目をみひらき
壁のしみをみつめる
煩悩がつぎつぎにうかび
α波はでてこない
そのうち足がしびれてきて
あぐらをかく
大きく腹式呼吸をする
壁のむこうに何も見えぬままの48時間
          (寄場詩人24)



●一日
今日も日がくれた
なまけものの俺のうえにも
夜はきて
一日はおわる

そうやって
月日はすぎていく
ぼけっと何もしないでいても
朝はきて
一日ははじまる

頭頂がうすくなり
白髪まじっても
女けのない一人ぐらし
何ともない一日
日めくられるだけの一日
[PR]
# by tatazumi | 2011-01-19 02:01 | 橘安純